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戦中、戦後の日本を“平和への志”のもとで一望できる一冊です
(著:田原総一朗/下平けーすけ)
「ぼくより年上の、戦争の恐ろしさを身をもって知っている世代の人たちは、「戦争はとても残酷なものだ」という考え方がとても強くて、理屈抜きに「戦争は二度とゴメンだ」という立場の人がほとんどです」
「一方、戦争を知らない若い人たちのあいだでは、「日本が強くなれば外国は戦争をしかけてこない。日本が強くなったほうが平和を守れるんだ」という声が強まっています」
二度と戦争を起こしても巻きこまれてもいけない、そのためにも私たちは「平和というものを真剣に考えるため」に過去の歴史を学ぶことが必要です。
このために田原さんはこの本を書きました。
おじいちゃんは戦中、戦後と何度も大きく価値観が変わるという滅多にない体験をしてきました。それは福沢諭吉がかつて「一身にして二生を経る」といったことにあたるような大きな体験です。
「戦闘機のパイロットになり、敵と戦って「名誉の戦死」をとげようと思っていました。それがぼくの夢だったのです」という少年時代、戦争が実に身近だった戦時の日本。その日本が敗戦を経て新しく生まれかわりました。「国民主権」「言論・表現の自由、結社の自由、信教の自由、集会の自由が保障されました。さらに、基本的人権や男女同権なども保障」されるようになったのです。
戦後の平和な日本でしたが、その中でも日本は変化を続けました。冷戦、朝鮮戦争、高度成長、そして冷戦の終結と……。日本は直接的な戦争には参加しなかったものの巨大な沖縄基地をはじめ、いくつかのアメリカ軍基地は今も日本に存在し続けています。
おじいちゃんが経てきた多くの経験は今の平和がどのような歴史の上に築かれてきたのかを証しているものです。平和の中で育っているからこそ、おじいちゃんはその過酷ともいっていいような経験をお孫さんたちに語っていかなければならないのです。
「新聞もラジオも戦争をあおり、また、国民には戦争反対という自由もなかったのはどうしてか」
「そして、敗戦後の日本に、ぼくたち日本人の身に、いったいなにがおこったのか。なにがどのようにかわったのか」
それを片時も忘れずに考え続けることが平和を続けていくことにつながっているのです。
戦争にはどのような大義もありません。
「日本は戦争を二度としてはいけないと思っています。子どものころの経験から、「正義のための戦争」ということばほど信用できないものはないとも思っています」
そして田原さんはこのような日本を理想として求めています。
世界を“お孫さん”が通っている学校になぞらえて……
「日本は学級委員長でもなく、クラスで恐れられているいばりん坊でもありません。ふだんはあまり目立たず、いつもニコニコ笑っているけれど、なんとなくみんなから好かれていて、いざというときは頼りにされる。そんな子のような国を目指すべきだと思います」
どのような貴重な体験であっても、それを知らない人たちに伝えることはとても難しいことではないかと思います。けれどその体験を知ることなしでは、ややもすると後世の人たちは歴史の解釈を変え、その相貌を変えてみせることもあるのです。
個人的な体験を普遍的な経験として残すには、なによりも語り継がれることが必要なのではないかと思います。
お孫さんたちに語るというスタイルだからといって、なにかを簡単に記したわけではありません。わかりやすく語ることで、かえって田原さんの熱情が伝わってきます。戦中、戦後の日本を“平和への志”のもとで一望できる一冊です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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