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映像としてはあまり残されていない大衆芸能の姿はもっともっと聞きたくなります
(著:高田文夫)
第一章の「体験的「笑芸」六〇年史」でとりあげられた森繁久弥、三木のり平からコント55号、ザ・ドリフターズまでの17人(グループ)の活躍、プロフィールは高田さんにとってはとても豊かな笑芸前史のように思えます。どの人にも高田さんが心から笑った笑芸への愛情に満ちています。と同時に彼らへの尊敬と彼らから少なからぬ影響を高田さんが受けたということだと思います。ほとんどの方が鬼籍に入り、映像もあまり残されていない人たちですから、彼らの時代を制覇した笑いがどのようなものであったのか、この本のような語り部がいなくなると、その凄さが忘れられてしまうかもしれません。
高田さんが放送作家として活躍し始めたころは、この人たちの記憶がまだ生きていたころでした。といっても“笑い”はテレビの中では傍流視されていたようで、主流は音楽番組でした。高田さんにとっては雌伏の時代でした。
そしてやってきた“笑いのビッグバン”、ビートたけしの登場です。
「たけしがこの世に登場する昭和五五年のMANZAIブームの時、山藤章二宗匠はズバリみごとにこう言い当て、喝破した。
「漫才がフィクションからノンフィクションに変った」
このひと言で、あの時代の「笑い」は分析できる(そう、この頃は“笑い”と言っていた。いつから“お笑い”になったんだ?)
盟友たけしと出会った高田さんは、本来の目標である“笑い”の世界を作ることに猛進していきます。
このたけし登場までのいきさつを記した第二章がこの本の白眉だと思います。売れない時代のたけしが他の漫才師をどう見ていたのか、そのころの“笑い”の世界はどうなっていたのか、また“笑い”を追求していた高田さんが、どのように“笑い”を音楽番組の中に取り入れていたか、そして“笑い”を作る悪戦苦闘の日々と……興味つきないエピソードが綴られています。
幼少年時の思い出とともにある、かずかずの魅せられた笑芸と笑芸人たち。高田さんがここに描いた笑芸人たちは今の芸人たちとは少し違っているようにも感じられます。それは高田さんがつぶやいた“笑い”と“お笑い”との違いなのかもしれません。
「テレビの全盛期にギリギリ間にあい、テレビを作っていられた幸せを、特にこの節ヒシヒシと感じる。大橋巨泉が週刊誌で語っていた。「テレビが家で王様だった時代に、テレビの中の世界にいられたことが幸せだった」と。平成に入って、テレビは? ウ~~ン、それはまた別の機会に……。ネット社会か……わからない」
という高田さんの感慨には「“笑い”“放送”“ライブ”“原稿”という大衆芸能に携わってきた」人の深い愛惜の念も感じてしまいます。高田さん大きな目で見てきた大衆芸能の姿は、映像としてはあまり残されていません。それだけにその空白を埋める語りはもっともっと聞きたくなるものです。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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