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どんなものにも「死角」がある。その当たり前のことに謙虚であることが、まず安全への第一歩です
(著:NHKスペシャル『メルトダウン』取材班)
「福島第一原発のような事故は、二度と起こしてはいけない。そのためには、いまだ全貌がわからない事故を巡る謎の一つ一つに丁寧に向き合い、粘り強く解明して教訓をえていくしかない」
そして、取り組んだ謎が次の七つでした。取材班は丁寧な取材で一つ一つ検証していきます。
・1号機の冷却機能喪失は、なぜ見逃されたのか?
・ベント実施はなぜかくもおくれたのか?
・吉田所長が残した「謎の言葉」ベントは本当に成功したのか?
・爆発しなかった2号棟で放射能大量放出が起きたのはなぜか?
・消防車が送り込んだ400トンの水はどこに消えたのか?
・緊急時の減圧装置が働かなかったのはなぜか?
・「最後の砦」格納容器が壊れたのはなぜか?
読み進めると「水はどこに消えたのか?」の章で「死角」という言葉にぶつかります。
「その漏えいルートとは、直径わずか3センチほどの配管だった。それも、その先にあるポンプが電源を失っていたことによって、思いもよらない水の抜け道ができてしまったのだ。それは、にわかに現れた原子炉冷却の「死角」とも言える。福島第一原発の事故を踏まえて準備が進められている安全対策には、原発のプロフェッショナルですら気づかない「死角」が他にも存在しているかもしれない」
どんなものにも「死角」がある。その当たり前のことに謙虚であることが、まず安全への第一歩であるとあらためて思わせた部分でした。
「吉田所長が残したベントは本当に成功したのか?」という「謎の言葉」はこの「死角」のことをいっているようにも思えるのです。
原発はどのような基準であろうとも完全に安全を保証することはできないと思います。そして安全基準はそれが破られたときに、はじめて見直されることになります。破られるまでは、その時の基準が最も安全だと考えられていました。(そうでなければ不完全なものを送り出していたことになります)
そしてその基準が破られたときには大惨事に直面します。そして見直される安全基準というもの。それが原発の安全基準の歴史だったのではないでしょうか。
「七つの謎」の検証後の(もちろん解決ではありません)最終章では東京電力の原発部門のトップだった武藤栄さんのインタビューで構成されています。ここで明らかになったのは「放水オペレーション」に固執し、現場が試みていた「電源復旧」を大幅に遅れてさせていったことです。「事故対応の主導権は、東京電力から官邸や経産省に移っていた」結果起こったことは
「政府の指示による優先順位の変更がどのような影響を及ぼしたのか。事故後、各地のモニタリングデータを収集し、事故当時から福島第一原発の放射性物質の放出の解析を続けてきた日本原子力研究開発機構。同機構が2014年に発表した最新の解析によると、統合本部ができた3月15日午後以降の放出量が事故発生から3月末までの75%を占めるという驚くべき結果が出された。3月15日以降、原子炉を十分に冷やすことができなかった結果、ベントや格納容器からの直接放出を通じて、大量の放射性物質が周辺に飛散したためだと考えられている」
というものでした。
原発事故はいまだにコントロールされていません。まだ解明、検証されていないことが数多くあります。この本でも現場にいた人物の取材、メモ等を通じても検証(謎の解明)をしきれていないことがいかにたくさんあるのかを教えてくれます。
問題はまだ解決されていません。それどころかどこに問題があるのか、何が問題だったのか、何が起こったのか、何が起ころうとしていたのか……考え続けなければならないのではないでしょうか。
レビュアー
編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。
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