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「時代の光を模索してゆく理想小説」という山岡さんの意図を越えて読み継がれる大河小説
出生乱離の巻から立命往生の巻まで全26巻の大河小説を、山岡さんは人間に平和が可能かという問いを持ち、足かけ18年の歳月をかけて完成した大作です。ここで描かれた家康は傑出した英雄でもないし、しばしば他の小説で描かれたような狡猾な家康でもありません。いかにして平和が可能かということを考え、生き続けた男として描かれています。
戦国時代を終わらせたのは確かに豊臣秀吉でした。けれどそれは、秀吉という希有な個性にのった危ういバランスの平和でしかありません。それゆえに秀吉の死と共にそのバランスが崩れ平和が終わるというのは家康にとっては自明の理であったのでしょう。
家康は秀吉と違う別の道を考えなければならなくなったのです。そして家康が(というより著者が)構想したのは指導者の個性に寄りかからない、制度としての平和がいかにして可能かということだったのだと思います。
山岡さんが描かれた家康は天下人という野望にとりつかれた男ではありません。生国を失うことから始まった家康の生涯は常に何かを失いながらの歩みでした。母、正妻、嫡男、愛児と失い続けた家康は、今自分に与えられた中で精一杯に明日を生きるということのみを心にしていたようにも思えるのです。
一族だけでなく領地も一時は喪失しなければならなかった中で生きた彼だからこそ、自らの喪失(死)の後も平和であるには制度としての平和を作らなければならないと考えたのに違いありません。確かにこれは家康の言葉として残っているように、重い荷物を持って長い道を歩くようなものだったでしょう。
誰しも平和を望まないものはいません。けれど望むだけでかなうものではさらにないと思います。それが家康が考えたことであり、また従軍作家として転戦し終戦を迎えた著者が実感したことなのだと思います。
「時代の光を模索してゆく理想小説」という山岡さんの意図を越えて(?)出版時には経営書としても読まれたというこの小説、手にする人によってさまざまな読み方を可能にする一冊だと思います。こういう大河小説こそ電子書籍で読み歩くにはふさわしいと思うのですが。
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