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どのような戦争であっても正当化はできません。美しさは、はかないものであり、それを感じた人間の心の中にひそかに生き続けるものだ

祖父たちの零戦
(著:神立尚紀)
2014.02.19
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何年かおきにブームと言っていいような取り上げかたをされる名戦闘機零戦。作られた当時、戦艦大和と並んで世界の常識を破った日本の技術力の卓越性の象徴として、また不敗神話を作ったものとして語りつがれています。また、太平洋戦争末期には特別攻撃隊の人間兵器として使われた悲劇の名機としても語られてきました。

でも、技術力だけでしたらその卓越性をいくら語っても新たな技術力で乗り越えられていってしまいます。また、悲劇というものも語り継がれていかなければならないものだけど、それはブームというものを生むものではないと思うのです。

ではなにが零戦ブームを作っているのでしょうか。それは零戦が持っている美しさというものから生み出されてくるものではないでしょうか。とは言ってもその美は、勇壮美でも悲壮美でもなく、純粋といってもいいような美しさじゃないかと思います。

この本は、零戦とともに戦地を転戦した二人の搭乗員の半生を中心に、零戦と日本の運命を静かな情熱をもって描いています。実戦での零戦の戦闘時の操縦法なども、著者の丹念なインタビューの積み重ねの成果でビビッドに描かれています。零戦好きにはそれだけでもたまらないでしょう。悲劇の特攻も、万策尽きた海軍首脳が講和を少しでも優位にするために考え出されたものでしかなく、その戦略の実態も戦果をふくめをうけた者。また、武装解除後の台湾で中国軍兵士より漢文の素養があり中国軍に一目置かれるようになったという日本軍の士官たちのエピソードなど悲喜劇混じった戦後の搭乗員たちの姿はさまざまな感慨を私たちにおぼえさせます。そんな彼らを支えていたのは、搭乗しているうちにいつの間にか彼らの身についた零戦の美しさだったのではないでしょうか。 て冷静に語られています。

けれど、この本は前半で語られる戦時中の記録としてでなく、戦後の搭乗員たちの生き方がさらにいっそう読むものに感動をあたえるものになっています。それはあたかも零戦の持っている美しさが、戦闘機をおりた人たちに、零戦に乗ったという誇りとともに体現されているからできたと思えるような生き方なのです。

戦時中に英雄として新聞に取り上げられたため、かえって顔が知られ戦後の焼け跡の中で少年たちから小石を投げられたりと掌返しの仕打ち。

著者が零戦とその搭乗員たちを追うモチーフの中にもそれがひそんでいます。オーストラリア上空でイギリスの戦闘機スピットファイアーを初めて見た搭乗員が一瞬そのスマートさ(美しさ)に心を打たれ発砲をためらったというようなエピソードを取り上げているところにも美を追う著者の思いがあるのではないでしょうか。

もちろん美しさがあるからといって、それがどのような戦争であっても正当化はできません。美しさは、はかないものであり、それを感じた人間の心の中にひそかに生き続けるものだと著者はこの本で言っているようにも思えるのです。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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