深緑が目を引く書影、憂いを帯びた瞳が印象的な二人、「不老不死」の青年将校と「致死の毒」を持つ少女というパワーワードの帯、思わず「ジャケ買い」をしたくなる美しい装丁の作品に出会いました。『アルカロイドの花嫁』は2021年に第79回ちばてつや賞一般部門で入賞した及川滲先生による初の長期連載作品で、2023年9月29日に第1巻が発売されました。
こぼす涙が致死の毒であるロメリアは長年研究所に囚われていた孤独な少女。
彼女を研究所から連れ出したのは、高位軍人であるクトゥリ。彼はロメリアを妻に迎えます。なぜ私を?と疑問が残るロメリアでしたが、ある日クトゥリの秘密を知ります。彼はなんと不老不死だというのです! 死ねない身体であるということは、自分の周りの人たちの死を見届けてきたということ。
彼もまた孤独をずっと抱えているのでした。死と孤独で分かち合える数奇な二人。婚姻という絆で結ばれた先にある幸福を見つけていく……。
と、あらすじを紹介するとなんだか重たいストーリーに感じてしまうかもしれません。たしかにこの重さが作品全体を魅惑的な雰囲気にしているのは事実です。
ですが、ストーリー展開はテンポよく、軽やかさもあるため読み進めるほど引き込まれていく魅力があります! その要因の一つとして、ツンデレなロメリアとドM(?)なクトゥリというキャラクター性が挙げられます。クトゥリに振り回されて「ツン」なロメリアが見せる「デレ」の姿は最高に可愛い……!!
もちろんロメリアの「ツン」にデレちゃうクトゥリも可愛い……!!
そして、可愛さだけでなくロメリアの「ツン」は良いツッコミとして物語を軽やかにしてくれているんです。
クトゥリの所属する医療班で働くこととなったロメリアは、ある出来事をきっかけに自分の涙が毒ではなく薬にもなる可能性を知ります。
ちなみに、作品名となっている「アルカロイド」という言葉はご存知でしょうか。alkaloidと書き、alkali(アルカリ)とoid(~のような物)を組み合わせた言葉です。分子内に窒素を含むアルカリ性の植物または動物成分の総称だそうで、少量でヒトや動物に強い作用があるそうです。有名なものでいうと、モルヒネもその一つです。まさに多量ならば毒だけど、用法と用量を守れば鎮痛剤として患者を助ける薬となります。
殺す道具にしかならないと思っていた涙が、人を救う助けになるかもしれないという事実はロメリアにとっても希望となるはず……!
さて、二人のイチャラブな姿も見れ、涙の研究も始まりそうで、物語は良い方向に進むかと思いきやラストに意味深な台詞が……! ロメリアに危険が及ぶのではと心配になります。
とはいえ本作の主軸二人の婚姻譚であり、あらすじに「幸福な」と書かれているのでこの不器用な二人の新婚生活を今後も愛でることができると信じています!
レビュアー
ライター。フリーランスで働く1児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!
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