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2023.09.03

レビュー

ホスト沼にハマる地雷系女子。歌舞伎町で月収200万「夜職」のスカウト!?

地雷系女子、歌舞伎町で忍者になる



仕事において、私情で動く人ってちょっと迷惑。恋愛をすべての行動基準とする人が傍にいても、もめ事が多い。でも、ごくまれに「個人の思い入れ」がいい仕事をする、こともある。
『地雷忍者るるの失恋』は、歌舞伎町を舞台に、「私情でしか動かない」地雷系女子・るるが忍者として活躍する物語だ。ホストに惚れてはすぐ沼落ち、あっさり失恋。生きてるだけで満身創痍の忍者ライフが、思わず笑ってしまう「歌舞伎町あるある」とともに描かれる。

歌舞伎町のコンカフェ店員・神無月るる(22)。



絵に描いたような地雷系である彼女(ちなみにスマホもバキバキだ)は、ホスト沼にハマり常に金欠。なのに勤務先のコンカフェにひとりも客を呼べない日も多い。そんなるるの前に現れたのは、とある「夜職」のスカウト・芽衣子さんだ。



提示された月収は200万。それもそのはず、夜職といっても水商売ではなく「暗殺、諜報、なんでもござれ」の、正真正銘の忍者としてのスカウトなのだ。るるに目を付けた理由を、芽衣子さんはこう語る。

他人を避けてるなら別だが むしろ
私を見て 気づいてって格好なのに
誰にも気づいてもらえない 



それこそが「忍者の才能」だ、と。

いやいやいやいや、忍者になんてなったら殺される!! 唯一自分を肯定してくれる場所・ホストクラブに駆け込むるる。



しかし、担当(推しのホスト)には、お金がなければ会うこともままならない。だからついつい、芽衣子さんの話にも耳を傾けてしまう。



「才能」にこんなに惚れ込んでくれるなんて悪い気はしないけど、そもそも忍者って何をさせられるの? 新人向けのターゲット本(これがホストクラブの男本みたいなのだ)を覗いてみると、そこに載っているのは最愛の担当!



情報を抜くにしても小突くにしても、彼がロクな目に合わないのは明白だ。誰の目にもとまらない自分に、たった一人「また会いに来てね」と言ってくれる人なのに……。しかし、それはるるがお金で買っていた「夢」にすぎない。恋だと思っていたものはあっけなく壊れてしまう。



何者にも、また誰かの特別にもなれないゆえの「地雷系」が忍者の才能として描かれるのが面白い。



そこから派生したるるの「必殺技」もいい。これは強いわ……。コメディと思いきや、こんなハードなアクションや忍者勢力同士の覇権争いなど、ストーリーをグッと引き締める要素があるのがたまらない。

もうホストには沼らない

基本的にるるは、その時々の感情でしか動かない。そのうえ、どうも男運もイマイチらしい。もうホストには沼らないし、忍者もやめる。歌舞伎町以外で幸せをつかむ……! そう決めて実家に戻っても、担当が店をオープンすると聞けば、新幹線に飛び乗り歌舞伎町に舞い戻る。その結果がこれである。



“億の男”スバルが店を構えるのは歌舞伎町のど真ん中、異常なほどの好立地。るるは担当の店を襲うハメになってしまった。





これが“億の男”スバル君。たしかに前の担当より仕事ができそうだ。これなら、いい場所に店をオープンするのも納得……。
さて、オープンイベントに駆けつけたるるが、マイクで思いを告げようとしたその時、



店内に踏み込んできたのは別の派閥と思しき忍者たち。たかがホストクラブ1軒に、妙に周到な手口を怪しむ芽衣子さんをよそに、るるは「私のマイクに触るな!!」の一心で大暴れだ。とことん、私情でしか動かない女である。



このシーン、歌舞伎町の売れっ子ホストならではの“ある手助け”がたまらない。さすが億の男。これは売れるわ……。
実は忍者の息のかからない店はない歌舞伎町で、どの忍者の手も及んでいないと言われるスバル。修羅場での落ち着きぶりも、ただものではなさそう。るるはこのまま彼に沼っていいのか? ただの「細客」から、スバルの心を動かす「特別」になることはできるのか?

「お金で買えないもの」は見つかるのか

芽衣子さんが惚れ込み、繰り返しクローズアップされるのがるるの才能としての「私情」。



とはいえ、忍者の「私情」って、普通はこういう感じ。



室町時代から続く暗殺忍者の名門・鵜飼兄弟の「私刑」は、るるのそれとはずいぶん様子が違う。忍者としてオーソドックスなのはこちらだろう。るるの場合は人探しのスキルさえ「ホストのネットストーキング」という私情なしには成り立たない習慣で培ったものなのだ。



とはいえ剣術といい、ネトストスキルといい、地雷系として生きてきたゆえのるるの才能は余すところなく忍者ライフに活きている。結果的に強いのだ。過程はどうであれ、こんなに適性バッチリの仕事につけるって最高では?
なお、鵜飼兄弟に襲われ絶体絶命のるるを救うのは、歌舞伎町を歩けば一度は遭遇する“アレ”。笑ってしまうが、これがまた「運命じゃん」と叫びたくもなるいいシーンなのだ。

願った通りになどならないのは世の常だけど、流されてみた先に思わぬ光が見えることもある。たとえば、私情人間・るるの最凶(強)ぶりを一目で見抜いてスカウトした芽衣子さん、これもまた「運命の出会い」じゃないだろうか。さて、“お金で買えないもの”は、果たしてるるの手に入るのか?

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

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