工学系大学の学生生協に並んでてほしいマンガ
『リ・ペア この世界は持続可能ですか?』を、「うら若き乙女が自分で家電とかを片っ端から修理するマンガだよ」と説明すると、たいていの工学系大学や工業高校出身のお兄様とお姉様たちは「いいね、好き」と喜ぶ。
私たちの生活は、隅から隅まで「人間が作ったもの」と共にある。たとえばお風呂場。
なんかちゃんと出なくなっちゃったシャワー、どうする? 買い換える? いやいや、直せます。そのためには問題の原因が知りたい。じゃあ原因を調べるには……?
そう、仕組みを知ればいい。仕組みがわかれば「じゃあシャワー板を洗えば直るかも?」って答えを出せるし、そもそも仕組みを知るのが楽しい。
技術畑の人と家電やロボットや自動車についておしゃべりすると、たいてい「アレはですね、こういう構造になっていて……」と教えてもらえるが、そんなときの彼らの口ぶりは、それはもうイキイキとしている。仕組みは知の鉱脈! 分解こそアドベンチャー! といった感じだ。あの興奮の意味が『リ・ペア の世界は持続可能ですか?』を読むとわかる。
ということで紹介します。彼女が本作で修理しまくる女の子、“朱里(しゅり)”です。
朱里とまったく同じことを私も我が家のホットクックに対して思ってたよ。朱里は機械に強い子ではないけれど、機械に詳しい“ナオト”に仕組みや修理方法を教わりながら自分で修理していく。
はんだ付けだってこの通り。でもなんでそこまでして自分で修理するんだろう?
修理しまくる理由の一つは、朱里たちが暮らしている世界の「特殊な状況」によるものではあるけれど、もう一歩踏み込んだところにあるコアはこれ。私の胸にも響くメッセージだ。
ものをリペアして大事にすれば、世界が変わるかも。
2026年、頼れる人がマジでいない
朱里とナオトは一つ屋根の下で暮らしている。ナオトは朱里のお世話係で、ちょっと無神経だけど献身的かつ物知り。そして、いろんなことを朱里本人に「やってみましょう!」と教えていく。
各エピソード絶対に何かを直している(ナオトの後ろにあるのは、まさかカセットテープ?)。
なぜなら、諸事情により朱里の周りには頼れる人間が一人もいないからだ。2026年の地球はぶっ壊れている。とにかく人間がいない。だから家電屋さんもいないし、修理に来てくれる業者さんもいない。そんな世界では、今あるものを大切に使いつつ、修理も自分でできるようにならないといけない。
ここで「じゃあナオトやってよ」ってならないのが本作のいいところだ。つべこべ言わず自分でやってみればいいんですよね。
自分で挑戦すると、知らなかったことに出合える。たとえばコイン形電池の型番のルールだってそう。
今まで呪文のようにがんばって覚えてコンビニまで買いに走っていたけれど、命名規則がわかれば楽ちんだ。しかも電圧は同じ! 知らなかった!
トイレのトラブルだって仕組みがわかっていたら、真夜中に業者さんに「トイレがヤバいです」って電話するなんて悲しいことをしなくていいかも。
ついでに「トイレのガッポン」の本名もわかっちゃう。ラバーカップなんて本名だったのかオマエ……。ああ、豆知識がビュンビュン飛んでくる。数ページに1度の頻度で「へー!」と言いながら読んだ。最近見かける電動キックボードの仕組みもわかるよ!
修理の基本「ゾンビ」
無人島で火をおこすだけがサバイバルにあらず、といったマンガだ。
トイレも自分でいけるんだ? あとでうちのトイレも見てみよう。しかも朱里たちは温水洗浄つきのトイレにアップデートさせようとしている。
製造が終了した機械を直す匠のような人もこうやって「ゾンビ」作戦を採っているのだろう。それにしても、朱里はシャワーヘッドの掃除からここまでステップアップするとは……。
ゼロから家電を作ることは無理。でも修理ならがんばれば自分でできるかもしれない。そう想像することがこんなに心強いなんて。朱里たちが暮らす地球がとんでもないことになっているのが心配だけど、こんな工学系サバイバルは大いにありだなあ。
レビュアー
ライター・コラムニスト。主にゲーム、マンガ、書籍、映画、ガジェットに関する記事をよく書く。講談社「今日のおすすめ」、日経BP「日経トレンディネット」「日経クロステック(xTECH)」などで執筆。
twitter:@LidoHanamori