「ラブコメ」「スポーツ」「ヤンキー」「バトル」など、漫画には王道と呼ばれるジャンルがあります。その中でも特にここ数年、「異世界」「転生」といったキーワードと共に話題となっていたのが「ファンタジー」。魔法や特殊な能力を駆使したバトルから権力闘争、立身出世、復讐劇などたくさんの作品が世に出ています。
今回新たに登場した新鋭ファンタジー漫画『バーサス』で、キーワードとなるのは「天敵」です。
物語は、人類にとっての宿敵である大魔王率いる47体の魔王に対し、47人の勇者が戦いを挑むため集結するシーンから始まります。
ビジュアルはもちろん、短いながらキャラクターの個性をにじませたセリフにも、これら勇者たちがどんな活躍を見せてくれるのか、ワクワクするオープニング。
頼もしい勇者たちの中にあって、本作の主人公・ハロゥは戦いを前に緊張でガチガチです。先行き不安ではあるものの、これはきっと彼の成長物語だから、序盤はこれくらいがちょうどいい……と思い数ページめくると、そこに描かれたいたのはまさかの事態。
戦闘シーンすらないまま、数々の勇者たちがあっけなく魔王の前に敗れ去っていたのです。あれだけ期待感のある登場シーンを描きながら、この容赦ない展開に思わず興奮。圧倒的強さを誇る魔王軍相手に、人類はどうするんだ……?
初登場時は頼りなかったハロゥに、どうやら覚醒の兆しも。これは期待できそうです。
なんだかんだ言ってもやっぱり主人公、やるときはやる、これが漫画の王道! さあここから、人類の逆襲が始まる!
……おや? 雲行きが怪しいです。
勇者が持つ聖剣で自分を斬ってみろ、と促す魔王に、ハロゥの怒りは頂点に。
まだ諦めてはいけない。先ほど輝いていたあの、勇気の剣があればきっと魔王を倒せる! 怒りを力に変えて、ゆけ! 俺たちのハロゥ!
剣と同時に、心が折れる音も聞こえてきそう。魔族たちは人類にとって、本作のキーワードである“天敵”。勝てるはずもなかったのです。
しかし、物語はまだ始まったばかり。さすがにこれでは終わりません。ここから先、さらなる意外な展開が待ち受けていました。鍵となるのはハロゥの兄である、魔法使いのゼイビィ。
この男によって、『バーサス』は動き出します。幼い頃に召喚魔法の面白さにハマったゼイビィは、この星全体を覆うほどの召喚魔法陣を駆使して、とあるものを呼び出したのです。
召喚された存在は、ハロゥたちを追撃する魔族たちをいともたやすく打ち払います。
召喚魔法によって呼び出されたのは、なんと“丸ごと別世界”! つまり、魔族をやっつけたのは別世界に住む人類たち。
未来からやってきて最新の科学力で問題解決、というパターンもありますが、本作は未来ではなくパラレルワールドから救いのヒーロー登場です。見るからに火力豊富な装備。これなら魔族も一網打尽。さあ、胸のすく逆転劇を!
……おや? 雲行きが怪しいです(2回目)。
そう、実はゼイビィたちが召喚した彼らもまた、別世界において滅亡の危機に瀕し、救いを求めていたのです。別世界での人類の“天敵”は、AI搭載のロボット。私たちが住む世界の未来、かもしれません。
別世界ごと召喚しているので、当然AIロボットもこちらの世界へ。人類の科学力を上回ったAIになすすべがないという状況で、ハロゥたちの世界の魔法が抜群の効果を発揮。
こうして科学力VS.魔族、魔法VS.ロボットという形勢逆転バトルが始まる、はずだったのですが、そう簡単にはいきません。魔王軍幹部クラスの力は最新の科学力をも凌駕し、AIロボットもあっという間に魔法対策を学習してしまうのです。
何度絶望を味わうのか。あとはただ、座して滅びるのを待つだけ……。しかし、ひとりの行動が運命を変えます。そうです、俺たちのハロゥです。魔王幹部にAIロボットと手あたり次第に挑発。これに反応した魔王幹部が魔力を増大させてハロゥを攻撃しようとした瞬間、まさかの事態が発生!
異常なエネルギーを感知したロボットが、攻撃対象を人類から魔族に切り替えたのです。人類にとっての“天敵”同士によるの壮絶バトルが勃発。
異次元の戦いが繰り広げられる隙をついて、ハロゥたちはその場から離脱し、人類の砦へと避難します。
そこに広がっていた光景は――。
物語冒頭から予想を裏切る“まさか”の連続で、先が読めないストーリーにあっという間に1巻読了。
「繋がった世界はひとつだけじゃない」の言葉が意味するものとは? 人類にとっての“天敵”を倒す方法は見つかるのか?
ファンタジーバトル漫画好きにとって期待感高まる、1巻終盤に明かされた、とある事実。人類VS.“天敵”の次なる展開、早く読みたくてたまりません。
レビュアー
中央線沿線を愛する漫画・音楽・テレビ好きライター。主にロック系のライブレポートも執筆中。
twitter:@hoshino2009