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2022.12.03

レビュー

お義兄様の愛が重すぎる。冷酷パワハラ鬼畜が溺愛スパダリ騎士へチェンジ!?

処刑エンドは回避したい!

今の自分の内面で、中学生くらいに戻れたら、とぼんやり妄想することがあります。記憶と経験があれば、もっとうまくやれたこともあるし、ずっと後にならなければ伝わらない他人の気持ちもありました。今の自分の記憶と知識を持って、あの時、あの場面にいられたら、人生はまるで違うものになったかもしれないから。

『死に戻りの薄幸令嬢、今世では最恐ラスボスお義兄様に溺愛されてます』のヒロイン・オルタンシアの一度目の人生は、やってもいない暗殺未遂の罪による斬首刑で幕を閉じました。

しかし、死んだはずの彼女がなぜか意識を取り戻すと、そこはヴェリテ公爵家所有の馬車の中。



「今日から君は私の娘」……。お父様が微笑みます。どうやら、公爵家に養女として引き取られた幼い日まで時間が巻き戻っているようです。見た目は幼くなっても、オルタンシアの記憶はそのまま。「気難しい」と言われる義理の兄・ジェラールのことも、忘れるはずはありません。

「冷酷公爵」とも噂された、氷のように冷たいジェラール。必死に無実を訴えるオルタンシアにも、耳を傾けてくれることはありませんでした。



二度目の今も、変わらぬ冷たさで、ジェラールは幼いオルタンシアを見下ろします。



この「死に戻り」は、冷遇され、最後にはまた処刑されることを繰り返す「罰」なのか、「今度こそうまくやれ」というチャンスなのか……?



二度目の人生、処刑エンドは絶対に回避したいオルタンシアは、「生存フラグ」を立てるべく、ジェラールと仲良くなることを決意するのでした。

俺は一度たりともお前を妹などと思ったことはない





若くして亡くなったオルタンシアの母は、チャーミングで恋多き酒場の歌姫でした。
しかし、幼いオルタンシアは母譲りの愛されスキルを使いこなせず、使用人たちに「妾(めかけ)の子」と噂されたり、マナーを知らず「山猿」と笑われたものです。しかし、二度目の人生では……



完璧な所作で食事をするオルタンシアを、皆が驚きの目で見つめます。一度目の人生の経験が役立ったのです。オルタンシアは気づきます。自分の行動次第で、運命は変えられるのかもしれない……と。



しかし、ジェラールの態度は相変わらず。整った顔に冷たい表情を浮かべるジェラールは、いつもオルタンシアを萎縮させます。



彼の冷たい目を見ていると、いくら冤罪(えんざい)だと訴えても取り合ってもらえず、失意のまま処刑されたつらい記憶がよぎります。



妹だとは認めたくないほど、ジェラールは自分を嫌っているのだろう。中身はもう幼い子どもではないのに、ただ「兄と仲良くなる」ことがこんなに難しいとは……。オルタンシアの心は、もう折れそう。
読者の私も「タイトルによれば、ラスボスお義兄さまは溺愛(できあい)してくれるはずでは?」と思い始めたころ、オルタンシアは自分の死にまつわる思わぬ成り行きを知るのです。

スケールが大きすぎてついていけない!

貴族の子どもたちの多くは洗礼を受け、加護を授かります。オルタンシアも父に連れられ、洗礼を受けることに。すると、彼女の前に女神さまが現れ、こう言うのです。



実はジェラールはオルタンシアを愛しており、彼女の死後、いろいろなことが明るみに出た結果、彼は魔神を呼び起こしてしまった……と。



私を愛してる? あの冷たいお兄様が? 魔神? 世界? いやいや、スケールが大きすぎてついていけない! 混乱するオルタンシア。



自分の生存フラグの確保に加え、「ジェラールを正しい道に導く」ミッションが、戸惑うオルタンシアにのしかかります。
超絶塩対応のお兄様に寄り添う道は、あるの……?

「ツン」過ぎて「デレ」が認識できない!

ジェラールと仲良くなる突破口はなかなか見つからないものの、以前は持てなかった勇気や、洗礼で授かった加護を武器にオルタンシアは行動します。何もできず後悔ばかりだった一度目の人生が、行動することで明るく描きかわっていく様子がいいんです。



そんなオルタンシアに対するジェラールの態度にも、徐々に変化が生まれはじめます。優しい言葉をかけてくれたり、



こんな風にかがんで目線を合わせてくれるようになったり……。



王道モチーフともいえる「死に戻り」主人公の二度目の人生は、何かと無双モードになる作品が多い気がします。しかし本作ではたったこれだけで「おお!!」と感激するほど、ジェラールの塩対応がしっかり描かれているのが新鮮でした。



女神さまの啓示があってもなお、「ツン」過ぎてヒロインが「デレ」を認識できない兄……。不器用すぎて、逆にイイ!

ジェラールの気持ちを知ると、あの冷たい目も塩対応も、なんだか違う意味に見えてきます。一度目の人生では2人の幾多のすれ違いがあったに違いありません。「お前を妹だと思ったことはない」。なんとなくここにも別の意味があったりして……と、ニヤニヤしながらページをめくりたくなるのです。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

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