爆発する姉妹愛
魔法使いが普通に存在する現代なのだけど、その魔法を政府がガチガチに管理しているおかげで、もしも私たちが勝手に魔法を使えば触法行為で手が後ろに回ってしまう。そんな世界では学校だってこんな感じだ。
どうよ、魔法使いが逃げているというのに気だるく殺伐としたこの空気。住宅街に来たイノシシみたいな存在なのかな。
魔法犯罪アクションの『戦花』は、そんな夢と希望がありそうで全然なさそうなディストピアが舞台だけど、この先、主人公の“茜花(せんか)”は抜群に強くなるんだろうなと私は信じている。
茜花が魔法使いだから? たしかに茜花は魔法使いだ。つまり犯罪者。でも私がここで目いっぱい主張したいのは、彼女の“ある属性”によって生まれる強さだ。
そう、茜花はお姉ちゃん。お姉ちゃんは、妹をいじめるやつを決して許さない。太ももだって妹を守りたい気持ちでパンパンだ。そして……、
このボロ泣きの少女が茜花の妹。名前は“晴花(はるか)”ちゃん。妹にこんな顔で泣かれて正気でいられる姉なんている? 名作映画「となりのトトロ」の主人公姉妹を思い出してほしい。お姉ちゃんは、妹に「バカ! もう知らないっ!」なんて怒鳴ったりするけれど、絶対に妹を見捨てない。絶対にだ。もう、どろんこになりながら妹を守るよね。
『戦花』で描かれる姉妹愛も、やはりそういう「妹なんだから守るに決まってんだろ」という理屈抜きのパッションで彩られている。
私にも大事な妹がいる。だからこのバチバチした感情に覚えがある。それにしても白黒なのにまぶしい絵っていいな。光の粒が見えるようなマンガだ。目にしみる。このまぶしさの源は、魔法の強い力に加えて炸裂する姉パワーによるところも大きい。
本作は魔法が爆発していないときも姉妹愛が爆発している。
妹を大好きすぎるお姉ちゃんと甘えん坊な妹のリアルな一コマ。
ということで、お姉ちゃんがいる妹のみなさんは、ぜひ読んでほしい。もちろん、かわいい妹をもつお姉ちゃん各位にもおすすめ。とても昂ぶる。私は自分の妹にすすめます。
やっちゃいけないことをやって「うえーん」と泣く妹
高校生の茜花と中学生の晴花は、自分たちが魔法使いであることをひた隠しにして生きてきた。
晴花は治癒の魔法使いで、お家のなかでだけ治癒の魔法を使っている。それにしても茜花と晴花の「変身見せてよ」「恥ずかしいからヤダ」なんて姉妹の会話がとてもいい。良質な姉妹物語とは他愛のないおしゃべりの集積だと思う。
この姉妹の穏やかな生活がどうして魔法犯罪アクションに転じてしまうのかというと、晴花がトラブルの種をまくからだ。そう、妹を持つ姉のみなさんなら容易に想像がつくと思うのだが、妹は「やっちゃだめだよ」と言われたことを、悪意なくウッカリやってしまう。
さんざん「家の外では魔法使うな」って言われてたのに、雨宿り中にちょっと魔法でお花を咲かせたりしちゃう。ここで私の姉センサーが激しく反応しました。ダメって言ってるのになんでやるかなぁ……。
でもね、妹に悪気なんて一切ないんですよ。むしろ「よかれと思って」だったりする。
お姉ちゃんの好きなお花を魔法で復活させて、お姉ちゃんに「いつもありがと」ってプレゼント。あーかわいい!
で、このまま終わるわけもなく……、
やっぱり政府にバレてしまう。ここまで大変なことになってやっと妹は「うえーん」って泣くんですよ。もう。
お姉ちゃんに任せろ!
目がめちゃくちゃ死んでる“魔法魔力取締局”のオッサンに捕まった晴花を、もちろん茜花は放っておかない。
ここから血と熱線と砂埃でドロドロの魔法バトルが始まる。このオッサンがまた強いんだよなあ……でも、姉が妹を思う気持ちの方が強いって私は言えるね。だって、茜花が力を解き放って変身するとこうなるから。
バキバキだ。「変身して見せてよ」「恥ずかしいからヤダ」の姉妹トークを思い出す。お姉ちゃんの変身はかっこいいな。私はこの絵のLINEスタンプがほしい。「お姉ちゃんに任せろ!」って伝えるときに妹に連打したい。
魔法と姉パワーが全開になった茜花は、魔法魔力取締局と正面衝突する。
激しいアクションシーンの100%が「妹を守る」の一点に集中しているのだ。素晴らしい。
ね、茜花強いでしょ。これぞ姉妹愛。私は晴花の変身シーンも楽しみに待ってます。
晴花が中学校でいじめられていたとき、いじめっこに向かって「姉だ!」と絶叫した茜花は、本作でもう一度「姉だ!」と叫ぶ。その凄まじさたるや。光で目がやられそうになる。お姉ちゃんの愛をぜひ拝んでほしい。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。