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2022.12.04

レビュー

誰が父を殺したのか? 父が遺した手紙で娘がすべてを暴く。衝撃のクライム・サスペンス!

その人は冤罪(えんざい)です

『クジャクのダンス、誰が見た?』は、殺された元刑事が娘に遺(のこ)した手紙から幕を開けるクライム・サスペンスだ。自分は平凡な人生を生きている……。本当にそうだろうか? 誰かが、その人だけが知る秘密を抱え、足下の濁流からかばってくれているだけかもしれない。主人公・山下心麦の平穏な日々は、ある日一変する。

クリスマスイブに一緒に屋台のラーメンを食べる、仲のいい父子。元刑事の父・山下春生と、大学生の心麦だ。



夜、1人で映画を観に行く心麦に「終わったら迎えに行く」と言ってくれた父は、待ち合わせ場所に現れなかった。



心麦が映画を観ている間に自宅が放火され、父はそれに巻き込まれ、亡くなっていたのだ。
ほどなくして、放火事件の容疑者が逮捕される。それは、かつて父が関わった猟奇殺人事件「東賀山事件」の犯人の息子だった。



父はあの事件の犯人を挙げたせいで、逆恨みされて殺されたのか――。思わず検索した「事件の詳細」は凄惨(せいさん)なものだった。ショックを受ける心麦。



でも……どんなひどい事件に関わってもそんなことを感じさせず、心麦を甘えさせてくれた優しい父はもういない。



辛(つら)い気持ちを抱え、父との思い出の屋台にラーメンを食べに行く心麦。心なしかラーメンの味が違うようだが、気のせいだろうか。



そこで店主が心麦に手渡したものは、あのクリスマスイブに、父がここで書いたという手紙だった。そこには予想外の内容が記され、さらに300万円もの現金が同封されていた。





父が、自分が殺されるのを予感していたこと。逮捕された“遠藤友哉”は冤罪である可能性が高いこと。同封したお金で、“松風義輝”という弁護士に遠藤の弁護を依頼してほしいこと……。父は信頼できる弁護士に真相を暴いてもらいたいのだろう。心麦は、弁護士・松風のもとを訪ねる。



しかし、父との関係を問う心麦に松風は、父とは面識がなく、なぜ自分に依頼が来るのかもわからないと告げるのだ。

父の手紙に書かれた、父と心麦だけが知るエピソードによって、心麦はこれを本物だと確信する。いわゆる「秘密の暴露」の手法を使うのがいかにも元刑事らしい。そして「娘のショックを和(やわ)らげつつ、手紙が間違いなく本物だと知らせる手段」としてこのやり方を選んだことに「必ず真相を暴いてほしい」という意思が見える。そんな父の訴えは、解決したかに見える事件を再び動かしていく。

何か裏があるとしか思えない



心麦の意気込みをよそに、松風は、身に覚えのない人からの突拍子もない依頼に警戒を隠さない。心麦の300万円を見てもなお、「冤罪だというが、遠藤が本当に殺していたらどうする?」と、その警戒を解かない。



冷たいようだが、もっともな反応だ。弁護士は、お金を出せばどんな依頼も受けてくれるわけではない。こんなことも、心麦が父に守られて暮らす大学生なら知らずに済んだのだ。それだけに、松風に冷たくあしらわれたように感じた心麦は、危なっかしいほどの行動力で事件の核心に迫ろうとする。



状況がわからないうちからグイグイ行き過ぎて少し心配……!



そんな彼女を見つめる誰かの視線も気にかかる。

一方、結局心麦のことが気にかかる松風は、遠藤に接見する。軽々しく依頼を受けはしないが、見て見ぬフリもできないところがいい。「敏腕」ではないかもしれないけど、信用できそうだ。



単刀直入に事件のことを問う松風に遠藤が見せた、この表情は一体……?

クジャクのダンス、誰が見た?



謎めいたタイトルでもある「クジャクのダンス、誰が見た?」は、「本当のことは本人にしかわからない」「人は自分には嘘をつけず、逃げられない」と、心麦の父が語った言葉だ。心麦の周囲の人たちはそろって饒舌(じょうぜつ)だが、本心はあまり見えない。親戚たちも、



父の元同僚も、なにかを隠しているのかも……? という気がしてくるし、



昔馴染(むかしなじ)みのラーメン屋のスープの味が変わったことさえも意味ありげだ。「各自、本人にしかわからない秘密があるかもしれず」「真犯人が別にいる」ことを踏まえて読むと、心麦の周囲の全員が怪しく見えてくるところが本当にうまい。

1巻の最後、心麦に関するある秘密が明らかになる。



明かされた内容に驚くが、改めて読むと、物語の序盤からきちんとヒントが示されていた。それを明かした人物が、ある程度の確証をもって「裏を取りに行った」と思われる描写もしっかりあった。謎は多いが、フェアな謎解きが楽しめる作品だ。何気ない仕草からそのキャラクターの心情が浮かび上がったり、ちょっとした1コマに「それって……」という箇所が出てくるため、推理というか妄想の余地が多いのも、また楽しい。

では、父の手紙がダイレクトに「真犯人を指摘する」ものではなく「真犯人は別にいることを示唆する」内容なのはなぜなのか? こんな疑問に関するヒントも、きっとこの1巻のどこかに隠れている……そう思うと、何度も読んでは考察したくなる。早く続きが読みたくて、連載中の本誌にも手を伸ばしたくなる漫画は久しぶりだ。物語にちりばめられた数々の謎の種が、次巻でどう花開くのか、今、一番楽しみだ。

レビュアー

中野亜希

ガジェットと犬と編み物が好きなライター。読書は旅だと思ってます。
twitter:@752019

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