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2022.08.05

レビュー

炎上、いじめ、ストーカー……SNSを通じて現代の闇を暴き出すネオ探偵物語

今や国民の半数近くが何らかのSNSを使っている(※2021年総務省の調査から)という現代社会。
インターネットやSNSが現実と地続きであることが当たり前になっている今、SNSに放たれた何気ない情報から事実を辿り、真実を特定して問題解決を図る探偵物語、『SNS探偵オノノキツカサ』。令和の時代に即した最も「今」っぽい探偵物語です。



毎日のようにインターネットで誰かが「炎上」して、「特定」されて「謝罪」する様子がSNSのタイムラインを流れていきます。
匿名掲示板では炎上対象の人物がSNS上に投稿した内容を手がかりに、本名が、住所が、勤め先が、交際相手が「特定」されていく様子を見かけることもあります。
ほんの何気ない「愚痴」から行動エリアを絞り込み、何気なくアップされた写真から交友関係を浮かび上がらせて、本人の「特定」に繋がる糸を手繰り寄せていきます。



何も考えていないのか、それとも解るはずがないとたかをくくっているのか。いずれにせよ現実とSNSに残された痕跡から人物を辿ることが可能であるという事実。
ネットに居場所が特定されるような画像を載せるのは危ないよ、という話はネットリテラシー講座などで耳にしますが、このような手段でもたどり着けてしまいます。

本作の第1話は、裏アカ女子のお話です。(ヤンマガwebで試し読みできます)

品行方正な優等生女子生徒が、ハメを外した「裏アカウント」で承認欲求を満たしていたところに……という話から始まります。
本作の主人公であるSNS探偵・オノノキツカサが、作中で彼の「探偵助手」となる女子生徒に対し、裏アカから本人を特定して助手になるよう持ちかけます。
裏アカの投稿を端緒に居住エリアを絞り込み、そこから通っている学校を特定し、学校名でSNSを検索して。この裏アカの持ち主が女子生徒本人であるということを特定する過程を披露しました。
ここでは特に「裏アカ」から個人の特定は簡単になされてしまうという事実と危険性が語られています。

念のために説明すると、「裏アカ」とは表向きの「本アカ」とは別に、愚痴や悪口を投稿してストレス発散をしたり、パパ活など知人に知られたくない行動をしたりするための「裏」用のアカウントです。
つまり世間体による抑制が「本アカ」に比べて弱いため、より過激でうかつな言動を行いやすく、「炎上」しやすい投稿が多いと言えます。



同時に自分ではフォローやフレンドの数を絞って使用しているつもりなので、関係者以外誰にも見られていないという感覚で投稿がなされるため、コンプライアンスに反した投稿がなされることが少なくありません。
しかし普通の人格と、SNSの人格は併せて一つです。



本作はSNSをテーマにしたサスペンスであって、一方でSNSのネットリテラシーの教科書という一面も持ち合わせた作品です。
SNSの使い方なんて誰も教えてくれないですし、どうして危ないのかということを教えられる人はほとんどいません。
それでも本作を読めば、断片化された情報を集めて、Googleマップやストリートビューなどの公開情報と組み合わせていくだけで、特殊なツールを使わなくても匿名のベールがあばかれてしまうという肌感覚を身につけられるのではないでしょうか。
ロシアのウクライナ侵攻でも、OSINTという公開情報から情報を特定する諜報活動が行われ、ウクライナの善戦につながっているという話ですが、SNSの特定と地続きの話とも言えるわけです。

本人が投稿した「今」の情報だけでなく、「過去」の投稿や、「友人」の投稿など、自分が把握していない部分まで総動員されてしまうので、トラブルに巻き込まれないために自衛するためのヒントも得られるでしょう。


最近は就活の場において、志望してくる学生のSNSアカウントを企業側がチェックすることが当たり前の手続きだと言いますし、そこから学生の「裏アカ」を特定する企業向けのサービスも人気を博していると言います。
うかつな投稿で人生を棒に振らないためにも、そして他人から向けられる悪意から身を守るためにも、本作で最新のネットリテラシーを身につけておいてソンはないと思います。やましいことがある人はなおさら!

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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