「ダサい銭湯継ぐなんて絶対にお断り!」
「風呂は命の洗濯よ」と言ったのは、とあるアニメに登場する中間管理職で酒好きの女性だった。彼女のセリフに共感できたのは30歳手前になってからだ。中高生の頃はまっっっったく意味不明だった。洗わなきゃいけないほどの汚れを自分の命に対して感じていなかったし、そもそもお風呂で「生き返るー」なんて思ったこともなかったし、なにかと銭湯やサウナに行きたがる母親の心情も謎だった。
だからお風呂終末コメディ『とりま、風呂いかね?』の“姫子”の態度がなつかしい。
ただ汚れを落とすだけの場所って思ってた! 姫子の自宅には普通の浴室だけじゃなく「下の風呂」があって、日替わりで薬湯があって、今日はラベンダー。そう、彼女の家は銭湯を営んでいる。
見よこの風格を。タイルもガラスも全部いい。なのに姫子は父親の跡を継ぐ気なんてさらさらない。そんな第1話のタイトルは「銭湯もサウナもマジないわ」。ギャル歯切れよすぎ。
や、わかるんですよ、スマホ持ってる令和のJKがいきなり自分の将来設計のど真ん中に銭湯経営を置くのって、いろいろと思い切りが必要。
ダサい、イケてないって、思っちゃうよね。でもサウナ好きなら最後の1コマを見逃さないはず。サウナの扉にわざわざ掲げられた「フィンランド式」という文字、気になりませんか。ここ、超本気のフィンランド式サウナなんですよ。あとで紹介しますね。
えー行きたい、サイコーの実家じゃん! それに姫子が銭湯を継がないと未来がヤバいらしい!
こんなふうにひろーいお風呂で両手を伸ばせる豊かな未来、守って!
謎の転校生の名前は由布院朱美
古き良き、そして銭湯通が見たらオッとなるような“明馬湯”のひとり娘・姫子は、家業のことをクラスではひた隠しにしている。子どものころからバカにされてきたからだ。
ある日、姫子のクラスに1人の美少女が転校生としてやって来る。
“由布院朱美”。人気スーパー銭湯「裸一貫」を経営する家の娘で、趣味は風呂巡り。なにより名字が由布院。全身で湯を体現しているJKだ。
まさかの同業者登場に焦る姫子をよそに、由布院さんは趣味の風呂巡りの一環なのか明馬湯にもお風呂セット持参で即やって来る。しかも姫子が番台にいるときに!
どうにかして逃げようとする姫子だが、まあ逃げられず、
なぜか一緒に明馬湯であったまってる。姫子は一応ここの常連さんのフリをしています。由布院さんは明馬湯のアルカリ性の泉質を褒め、壁の富士山を褒め、とにかく「ここのお風呂はすばらしい!」と大絶賛。でも……?
姫子がこの銭湯の家の子だってバレてる! 湯から上がった由布院さんは、そのまま姫子をフィンランド式サウナへ強引にいざなう。なんのために!?
乾いた葉っぱでバシィッ
だいぶ暴走気味の由布院さんはサウナでさらにヒートアップ! 無理もない。明馬湯にはサウナ好きなら一度は憧れる夢の設備「ロウリュ」と「ヴィヒタ」が備わっているのだ。姫子のお父さんの仕事、完成度が高い。
楽しそう。由布院さんによる解説がためになるよ。とはいえまだ姫子にはサウナのよさがぜんぜん理解できない。熱いわ葉っぱで打たれるわ、全然気持ちよくないし、いったいなんなの?
サウナ初心者が感じるであろう「は?」をすべて代弁してくれる姫子が次に連れてこられたのは水風呂。水温16度。
死。でも……?
最終的にこんなふうに仕上がっちゃう。ついに姫子はサウナ愛好家のあいだで「ととのう」と呼ばれる境地に達する。ちなみに、本作ではその瞬間を「ととのう」以外の言葉で見事に表現している。私はそっちのほうが好きでした。
この日以降、姫子はあんなに嫌っていた銭湯のことを悪くないなと思うように。でもまだ継ぐ気はない! そんな姫子をさらに押すかのように、お風呂伝道師として姫子の日常にグイグイ食い込んで銭湯の尊さを説きまくる由布院さん。
もはや利用客の域をこえてるね。姫子のオーバーオール姿がかわいい。なお、毎話ふたりは明馬湯に一緒に入ってます。
めくるめくお風呂の世界、気になる。でもいったい何者なんだろう。お風呂好きすぎJKこと由布院さんの正体を知ったとき、姫子も銭湯JKとして覚醒する……? 読んだあとはとりいそぎ近所の銭湯を検索したくなりますよ!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。