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2022.01.22

レビュー

【成長教】他者の評価に怯え走り続けることを強いられる現代人に贈る救済の物語

正直、個人的にめちゃくちゃ心当たりがありすぎて、連載開始当初SNSで話題になっていた際に笑えなかったことを思い出しました。
『夫は成長教に入信している』。紀野しずく氏原作の、北見雨氷氏による作画にてコミックDAYSにて連載されていた作品です。
この記事を読み進める前に、まだ本作を未見の皆様には、どうか是非、第1話を読んでみてください。
(第1話はこちら⇒https://comic-days.com/episode/3269632237324396837

……いかがでしたか?
あなたはこの作品の主人公、コウキの行動を素直に笑えましたか? それともイラッとしましたか? あるいは恥ずかしい気持ちになったり、身近な人間の言動に心当たりを感じたりとかしませんでしたか?

私はどちらかというと自分の黒歴史を暴かれているような気がして、とても恥ずかしい感覚をおぼえた記憶があります。共感性羞恥の一種でしょうか。最近は落ち着きましたが、私にも心当たりがあったからです。

スキマ時間を使ってスキルアップで余裕がなくなっている人だとか、ニュースをまとめたサービスで気の利いたコメントを書き込んでセンスを見せたい人だとか。
サウナや筋トレ、マインドフルネスなどの流行りを追って形から入る人だとか、論破することに目が眩んですっかり世間からズレてしまったインフルエンサーとそれを崇(あが)める人だとか。
現代のそういった「成長」に関するアレコレに生活が絡め取られてしまった人の具現化がコウキと言えるでしょう。そしてそのコウキの行動を、妻という第三者の目から描いたものが本作です。

家庭を守るために、家族を養うために仕事で「成果」を出さなければいけない。「生産性」を上げるために成長しなければいけない。自分への投資が一番コスパが良いと考え、全てのプライオリティは仕事が優先される。
家庭を守るために仕事を頑張っているのに、いつの間にか仕事が一番、家庭はその次になっている。

仕事だから仕方ないじゃないか、今仕事中だから子供と遊べない。休みでも仕事の連絡が来たら反応しなければいけない……。
本屋に行っても何かの焼き直しみたいなビジネス書ばっかり見て、インプットした気になったり、なんだかよくわからないセミナーを受けたりサロンに入って勉強した気になったり。そして家族と過ごす時間が少なくなっている……。




こういった状況に心当たりがある人いませんか。心当たりがあった人も。

コウキは意識高い系の権化として描かれていますが、基本的な能力はきちんと持ち合わせており、後輩や同僚に頼られている様子もありました。しかし、真面目で責任感があったからか、頑張りすぎていたのです。
頑張りすぎていると、何かの拍子にポッキリと折れてしまうものです。そう。ポッキリと。

あることがきっかけでコウキは成長教にがんじがらめになっていた自分の人生を見直すチャンスを得るのですが、それでも頑張り続けてしまう人が後を絶たないのが我が国です。

成長を望むあまり、自身のメンタルを病んだり、内臓を壊してしまう人はたくさんいます。自分がそうならないためにも、セルフチェックのためにも手に取ってみることをお勧めします。ばかなことしてるなぁ、と笑い飛ばせたらきっとあなたは大丈夫。でもあなたの友人の顔が浮かんでくるかもしれません。
もし本作を読んでみてあなたが笑えなかったら、一度ゆっくり考えてみるのも悪くないでしょう。

良薬、口に苦しの言葉の通り、耳が痛く感じる人もいるかもしれません。成長教は必ずしも悪だとまでは思いませんが、頑張り過ぎてしまう人たちが多い現代社会に本作は必要な作品だと思います。
まだ、私も成長教から完全には抜け出せていませんが、ゆっくり、頑張りすぎないための戒めにしたいと思います。(装丁もソレっぽいんです)

レビュアー

宮本夏樹 イメージ
宮本夏樹

静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。

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