世界の1%の富豪が持つ富は その他約70億人の合計の2倍以上
ますます広がる格差社会に対する不平不満や怒りをどこにぶつけたらいいのか!! と、こんな時代になってなおのこと思うようになりました。
『ダーウィンクラブ』は、そんな私たちが心の奥底に抱えていた感情に鋭く切り込んだ作品となっています。
警視庁北品川署に勤務する石井大良(いしいたいら)は、報告書もろくに書けない、どちらかというと“ぼんくら”な警察官。
ただし、人とは違う凄い特技がありました。それは、人の顔を1度見ただけで誰なのかを覚えられるということ。
子供の頃から今も、宇宙飛行士になる夢を持ち続けている大良は、ロケット開発をしているワイルドスペース社と、そのロケットに搭乗予定のアマノキャピタルの社長との中継映像を見ていました。
大良が同僚の宮本相手に名前当ての特技を披露していると、突然とんでもない映像が飛び込んできます。
フロリダのワイルドスペース社での銃乱射事件と、台場のアマノキャピタルでの爆破事件が同時に起こったのです。
実は3年前、この2つの会社には謎の組織「アングリービーグル」から、犯行予告が出されていました。
それは、「CEOと一般従業員の年収格差が千倍以上の世界的な企業100社は、3年以内に年収格差を200倍以内にしないと、この世から消滅する」というもの。
すぐさま事件現場に向かう大良。中継映像に長年、探し続けていた男が映っていたからです。
その男というのは、10年前に大良の父親を殺した男でした。
押し入れに隠れていた大良は、その男の左手首に変わったマークがあることを目にします。
こんな感じで、冒頭からスピーディにインパクトのある事件が起き、この先はもっと事件や犯人が複雑に絡み合っていきます。
まずロンドンでは、プライベートジェットが狙撃される事件が起き、都内では人材派遣会社の社長が襲われる事件が起きます。
このどちらも、「アングリービーグル」が犯行予告を出した会社であるにも関わらず、なかなか謎の男の尻尾が掴(つか)めないのです。
それだけでなく、警察の捜査本部にも怪しい動きがあり、読者の想像を欺(あざむ)く仕掛けが次々と出てきて、謎は一層深まるばかり!!
舞台も品川区、港区、江東区、台東区といった都内だけでなく、サンフランシスコ、フロリダ、ロンドン、アルゼンチンのパタゴニアと、まるで製作費数十億円をかけた映画のようにワールドワイドなスケールなのです。
それにしても気になるのは、この本のタイトル『ダーウィンクラブ』は、どこから来ているのか?ということ。ずっと気になって読んでいたのですが、その正体が少しだけ見えたのはかなり後半。
しかし、なぜ『ダーウィンクラブ』なのかは明かされないままなので、まだまだ謎だらけ。
もうひとつ、商店街で自転車屋を営んでいた大良の父親が、なぜ殺されなければいけなかったのかも謎です。
「アングリービーグル」が狙うのは、CEOと従業員に格差のある巨大企業のはずなのに。
こうした謎の多さと、一筋縄ではいかない仕掛けが、このお話の面白さだと思います。
この先はどうなるんだろう? そう思いながら読み進めてきましたが、その期待を絶対に裏切らない作品です。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp