「地球なめるなよ」
ある日突然、もちもちとしたまんまるい宇宙人が自分の部屋にやって来て、そのまま居候しちゃったら、どうなるんでしょう。
そうそう、こういう感じで異次元からゴロンと現れて、さして大きな怪我もしておらず、こっちに危害を加える気配もなく、コミュ力そこそこありそうで、なんなら日本語を喋ってて、強酸の液体とか出してない宇宙人。つまり、私たちが友情を育むのに適した感じの宇宙人が来たら、どうしましょうね。
小学生の“コウタくん”が出会ったのは、ポコムー星っていうかわいい名前の星からやってきた“ムムリン”。友好的でかわいい!
涙ながらに身の上話を始めるムムリン。ここからコウタくんとムムリンの楽しい毎日が……、
始まらないんですわ、これが。宇宙船も不思議な道具も持たずに素っ裸で転がり込んできた宇宙人なんてコウタくんにはバリューがないし、おもしろくない。「どうも!」とかわいく挨拶したムムリンの立場がどんどん危うくなる。
絶対に泊めてもらいたいムムリンと、そんななし崩しは絶対に許さないし、なぐさめるどころかむしろムムリンの見通しの甘さをハイテンポに突きまくるコウタくん。そう、彼は正論と手厳しさをブンブン振りかざすタイプの小学生なのです。
ムムリンがここまでダイレクトにお願いしてもダメ!
ムムリンの泣き顔がかわいい。っていうかさっきからずっと眉毛がハの字になったまま。このかわいさにほだされることなく「地球なめるなよ」と言い捨てるコウタくん、強い。
「そもそもさ」「あのさあ」からド正論のコンボが決まり続ける
でも、私はコウタくんのことがきらいじゃない。(ムムリンのこと泊めてあげなよおもしろそうじゃん、とは思うんですけどね)
なぜなら、コウタくんは誰に対しても等しくご指摘キャラで通すからです。
とても筋が通っているし、この場面でコウタくんがお友達の“ナナちゃん”に言ってることは超まとも。
コウタくんにド正論で詰められて「ギク」となる人が続出するマンガなんです。実は彼の正論に救われる子だっているんですよ。コウタくんは別にいじわるで言ってるわけじゃなく、「おかしくない?」と思ったら言わずにはいられないだけ。あと、こういうときムムリンは何をしているかというと、コウタくんの隣でオロオロ困ってる場合が多いです。かわいいね。
唯一、彼の正論が通用しないのが“ママ”。ママのはからいによりムムリンは無事コウタくんと一緒に暮らせることになります。
まあ、一緒に暮らし始めたあとも、コウタくんは24時間ずーっと手厳しいわけですが。コウタくんによる「あのさあ」からの鬼のような正論。笑う。
小憎たらしいのに愛らしい
小憎たらしいド正論ボーイがスカッと世を斬るマンガかと思いきや、なんかそうでもないのが『ムムリン』の愛らしいところで、私が一番好きな点でもあります。どことなく優しい気持ちになるんですよ。
たとえばこのエピソードが私は大好きです。ある日、ラジコンを持っていないコウタくんのために、押し入れに眠っていた古いおもちゃを使ってラジコンを作ったムムリン。
コウタくんの「謎の科学力だなあ」って感想に笑う。確かにどうやって作ったんでしょう。で、いざ走らせてみると……、
ムムリンお手製のラジコンはのろのろ。ありがとうも言わずにぶつくさ文句を言うコウタくん。すでにムムリンが少しかわいそう。でもコウタくんの気持ちもわかる。
そしてコウタくんの予想通りの展開に。
いたたまれない……。
つらくて悲しくて先に帰っちゃうムムリン。ムムリンのこの無力さは、本作の大切な要素だと思います。不思議な道具で現実がガラッと変わるわけでもないし、愛嬌で何かを乗り切るでもない。
ムムリンは泣いちゃいましたが、「そんなラジコン楽しくないだろ?」って馬鹿にされまくったコウタくんは……?
コウタくんは強がっているわけでもなく、本当に「楽しい」と思っています。たしかにムムリンの前でも「楽しくないよ」なんて一言も言ってないんですよ。(なぜ楽しいと思うかの理由もド正論)
ムムリンが作ってくれたラジコンで遊び続けるコウタくんの後ろ姿がいい。どのエピソードも読後感が絶妙にいいんです。甘すぎずしょっぱすぎず、ドライすぎずウェットすぎず、「たしかにねえ」って思っちゃう。
コウタくんはムムリンをちょいちょい困り顔にさせるし、不器用なところも多少ありますが、友情を育む地球人として適している存在なんじゃないかなーと私は思います。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。