都道府県が47もあってよかった
「ご当地」ってどうしてあんなに燃えるんでしょう。たとえば、2020年夏のスターバックスの限定フラペチーノは、47都道府県ごとにそこでしか飲めないオリジナルフラペチーノ47種が展開されるという怒涛のキャンペーンでした。で、我が地元のフラペチーノは何なのかな?って確かめたときのあの興奮。楽しかったー!
私は愛媛県で長らく育ったので「そりゃ当然みかんでしょうね、わかってますよ、でも一応チェックしますか」くらいの気持ちだったんですよ。そしたら! 愛媛のフラペチーノはキウイ味。まさかの展開。でも愛媛のキウイはおいしいんです。ちなみに、みかんは和歌山県と静岡県のフラペチーノに採用されていました。和歌山、今はみかんの生産量1位だもんね……というか静岡はお茶をどの県に取られたんでしょう。
と、こんなふうに地元ならではの細かい細かいプライドと、ほんのちょっとの悲哀と、「お隣には負けるまい」みたいな妙な対抗意識をかきたてられることってありませんか。
そのすべてを味わえるマンガが『四十七大戦』なのです。
主人公は“鳥取さん”。鳥取さんは鳥取県のご当地神。『四十七大戦』の世界では各都道府県に“ゆる神”と呼ばれる神様がいて、彼らは地元の人々から敬われ、慕われています。
で、神々は何をしているかというと……ここでタイトルを思い出してください。『四十七大戦』、つまり、これは47都道府県の神様たちのプライドをかけた戦の物語。
スタベ不毛の地であった鳥取県に、晴れてスターベックスが出店しただけで感動して涙ぐむような心優しい鳥取さんも例外なく戦に巻き込まれていきます。大丈夫か?
鳥取さんが最初に戦う県はというと。
隣の島根県の“島根さん”! やっぱり! 小学生時代に社会科のテストで緊張しながら「どっちが島根でどっちが鳥取か」を回答したなあ。
各県の神々は、自らの県の威信をかけたガチンコバトルを繰り広げます。どうやって県の威信をしめすかというと……、
たぶん、島根県民はここで拍手するんだろうな。
鳥取県も負けてません。
鳥取県は蟹取県、いい。もう最初から最後まで地元にまつわる小ネタと郷土愛がぶつかり合うマンガなんです。
県境のアイデンティティの曖昧さ、ものすごくよくわかる。本書のカバーを外すと「四十七大戦 地元の人にしか分からなかったであろう用語・設定解説」が読めますので、ぜひご参照ください。
ということで、『四十七大戦』は47人のご当地神様がいつか必ず登場することが第1話で約束されている超大作なのです。あなたの地元も私の地元も、そして東京も、出てきます。
すべての都道府県にスタベが出店したとき、機は熟し、何かが起きます。
あなたは何県の神様ですか!? ああ、燃える。
「あーあ人口増えないかなあ」「立てよ鳥取」
『四十七大戦』を読めば読むほど、つい、育った愛媛を離れて上京した自分のことを考えてしまいます。なぜなら、神様たちの戦闘力は「人口」で表されるからです。
鳥取県と島根県の決闘だとこんな感じ。負ければ人口流出で対戦相手の県に併合されます。情け容赦ない。
過疎化問題は鳥取さんと島根さんの普段の会話の端々からも漂います。(決闘してないときは彼らはフツーにおしゃべりするんですよ。かわいい!)
そんなことないよ鳥取さん、って私はどの口で言えばいいんだろう。
人口減少に苦しむ地方都市が日本のあちこちに存在しています。そして、スタベがすべての都道府県に広まったことをキッカケに、大いなる謎の力により、四十七大戦の幕が上がるのです。彼らは何をかけて戦うのか?
全都道府県対抗の首都争奪戦! 想像に難くないのですが、鳥取さんは「鳥取県が首都になるなんて、政令指定都市もないのにそんな……」って弱腰。ところが島根さんはやる気満々。
過疎化=死。このコマを見るたびに笑っちゃうんだけども胸がヒリヒリする。
2014年に消滅可能性都市として指定された鳥取県よ、立ち上がれ!
なんだろう、私は鳥取県民じゃないのに、ものすごく鳥取さんを応援したくなる。消えてほしくないんです。
実は本作の1ページ目で鳥取県の運命が示されています。
なんと鳥取県はいつか首都争奪戦に勝ってしまうというのです。失礼を承知で言いますけど、どうやって!?
ほら、47も都道府県があったら、こういうゴリゴリに強そうな県の神様もいっぱいいるわけですよ。ほんと、どうやって勝つの?
それに鳥取県と隣接しているのは島根県だけじゃないですよ! 鳥取さんがあれだけ熱望していた政令指定都市を持つ県が2つあって……。
そう、ひとつは広島県です。いい! なんかそれっぽいぞ! 都道府県の擬人化がどれもいい。各県の神様が魅力的で、ちょっと誇らしくなる。
戦いを重ねるたびにたくましく成長する鳥取さんは、次はどの都道府県と決闘するのかな、うちの県の神様はいつ出るのかな……って続きをどんどん読みたくなります。ということで、朗報です。2022年4月には10巻まで一気に発売される予定です! 待ってます!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。