市民の財産
自分が暮らす街の図書館に入ると「ああ私の街にはいろんな人がいる」とよくわかる。世代も、家族構成も、読みたい本もちがう。これが学校の図書館ならばそこの学生が主なユーザーだけど、公共の図書館は市民みんながユーザー。そのぶん、いろんな人がいて、きっといろんなことが起こっている。
『税金で買った本』の舞台は、とある公共の図書館。
「図書は市民の税金で買った財産」。たしかに。
「弁償すればいいんでしょ」なんて軽々しく言えないな。『税金で買った本』は、こんなふうに大切に大切に市民の財産を守ってくれる司書や図書館スタッフたちと、彼らに大切に取り扱われ、いろんな人の手元に出かけては戻ってくる本たちの物語だ。
そう、図書館の本たちは、貸し出された先でいろんな目に遭う。
なんで借りた本にマーカーで線を引くかなあ……そして水滴も気になる。
傷んだ本は簡単に捨てられることはない。なぜなら市民みんなの税金で買った、市民みんなの財産だから。
好きな場面だ。ペタペタと糊を塗って、ぐっと抑えて……?
すごい! こうやってメンテナンスされているから古い本でも何不自由なく読めるのか。ありがたい。
図書館のお仕事がよーくわかるマンガだ。知らないことがいっぱいあった。そして、せっかく納税して市民として暮らしているのなら図書館に行かない手はないよなーという気持ちになる。
10年前に貸した本、返して?
ある日、司書の"早瀬丸さん"が勤める図書館に、 "石平くん"という若者が貸出カードを作りたいとやって来る。
ちょっと見た目が怖いけれど「ジュースをしまって」と早瀬丸さんが言えば、こんなふうにおとなしくジュースをカバンにしまう彼は、ある事情により貸出カードを作ることができない。
わかる、レンタルビデオ屋で働いていた私にはわかるぞ次の展開が。別室に案内された石平くんに突きつけられた事実は……、
はい、長期延滞。悲しそうな早瀬丸さんの顔をよそに、「おぼえてねーよ」と突っぱねる石平くん。このままじゃ貸出カード作れないよ!?
めちゃくちゃマッチョな司書“白井さん”も登場。ちなみに白井さんの美ボディは、図書館で借りた筋トレの本でメソッドを身につけて築き上げたものだそう。図書館ってすごい!
司書および公的な仕事に就く人の怒りの声。ごもっともです。私はたぶん納税額以上のサービスを日々受けてます。だって自力じゃ図書館なんて作れないし。
で、見た目は怖いし「しらねーよ、時効だろ」と突っぱねていた石平くんは、傷ついて捨てられる本たちを目の当たりにして……、
なにか感じるものがあるよう。そう、どうして彼は図書カードを作りに来たのかといえば、そりゃもちろん、本を読みたかったから。
マッチョの白井さん、いいことを言う。知りたいから本を開き、本が必要だから図書館に足を運ぶ。たとえお金がなくても、公共の図書館があれば、人は学ぶことができる。
10年前の気持ちを思い出した石平くんは弁償をすることに。
お金で弁償するのではなく、同じ物で弁償。がんばれ石平くん!
では現実の図書館ではどうなのだろうか。原作者のずいのさんによる図書館コラムも楽しい。
図書館をますます好きになる。ほんと知らないことがいっぱいなんですよ。
がんばって本を弁償した石平くんは、やがて図書館で働くメンバーに。わかる、彼ぜったい良い人で本好きだもん。
いつもは優しくて上品な早瀬丸さんが「ゲェ……」と頭を抱えるような事態も発生する。さあ、どんなトラブルでしょう? たくさんの本が出迎えてくれる静かなる図書館では、実はいろんなことが起こっているのだ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。