みんな、身体のどこかから植物が生えている
ぜひ紙の単行本で読んでもらいたいなあと思う。『花は口ほどにモノを言う』の世界で暮らす人々は、身体のどこかから植物を生やしている。それは枯れることなく、本人の感情とも結びつきが深い。そんな世界を表現するうえで漫画の白黒とカラーが美しく活きている。
たとえば、「第1話 ポピー ~恋の予感~」の主人公“ハナ”は、ある日を境に植物が生えなくなってしまった女の子。この世界と彼女の状況は次のような1ページでふわっと表現される。
ハナだけモノクロ。そして周りは本当にあちこちからいろんな植物が生えている。ハナはこの世界ではちょっと異質な存在。でも生き死にに関わるトラブルでもなさそう。だからフツーに登校できているのだろう。
そして、このページを彩る鮮やかな植物を見て、私はなんとなく「生えてるほうがいいな」と思っちゃうのだ。ここでもう本作の世界を理解し、すっぽり入り込める。好きな場面だ。
ハナの物語に踏み込む前にもう少しこの世界のことを紹介したい。
植物は、人の意のままにはならない存在だ。生える部分は本人の意思によるコントロールがむずかしそうだし、植物の種類だって選べない。つまりファッションとは別のもの。なのに「それが何の植物で、どんなふうに生やしているか」が、他者からの評価に強く作用する。
選べないわりに、美しい花を咲かせていればそれだけで「綺麗」「芸能人みたい」と他者から言われる。そして反対もしかり。
なんだかこの無茶苦茶さって私たちが暮らす世界にもありそう。選べないことを他人があれこれ言うのはナンセンスだと教わって大人になるのに、「もって生まれた選べないこと」に対するジャッジメントと完全には決別できない。いいことも悪いことも見てしまう。
持って生まれた特性が、有無を言わさない美しさを放つことだって知っているから、やっぱり無視なんてできない。本作の世界で咲く花は、本人のなかで抑えきれない何かの象徴だ。
心が抱える憂鬱さだってこんなふうに花が代弁してしまう。そう、無視なんてできない。じゃあどうしようか。
いやだって言う人もいるかもしれないけれど、誰かが見つけて慈しんでくれたら、それだけで大丈夫になるのに。
『花は口ほどにモノを言う』はTwitterで話題を呼んだ作品だ。「いいね」の数は60万を突破した。わかる。心の中で花が咲いたことのある人は、そして枯らしてしまったことのある人も、大勢いるからだ。
突然枯れてしまった私の「花」
ハナは高校2年生の女の子。ハナの植物は、ある日突然枯れてしまった。
原因は不明で、日当たりのいい窓際に座ってニョキニョキ生えてくるでもなし。(先生の頭にちょこっと生えた葉っぱがかわいい)
ある日、ハナは同じクラスの“日向くん”に告白される。
好きな子を前にして「どうしよう」って言っちゃうの、いいな。そして日向くんの肩からポピーが花開いて……!
なんて可憐な告白だろうか。しかもポピーの花言葉は「恋の予感」。最高のシチュエーション! 本作で「ああ、植物めちゃくちゃ綺麗だな」と感じる時は、登場人物たちの感情の揺れ動きとリンクしている。
で、植物も生えてない私がどうして好きなの? と戸惑うハナに、日向くんはただただあったかい言葉をかけ続ける。ほんと名前の通りだよ、日向くん。
ハナの背中から植物が……! でも、そう簡単には物語は進まない。
別の女の子と話す日向くんの背中にポピーが……! ポピー! 恋の予感! おい!
さっきまでハナの背中で芽吹いた植物は引っ込み、苔が彼女を包む。わかるよ……。なぜハナの植物が枯れたのか、彼女が抱えてきた心のわだかまりもここで同時に明らかになる。日向くん、明るく照らしてくれ、頼むよ。
……こんなふうに、身体のどこかに植物を生やす人々の恋模様を一緒になってハラハラできる作品だ。ハナが咲かす花はどんな色で、どんな名前の植物なのか。どうぞお楽しみに。絶景でしたよ。どの恋も、どの女の子も、みんな美しい。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。