15歳でもスポーツカーに乗れちゃう!
満18歳になるまで自動車の運転免許は取れないけれど、15歳が“レーサー”として世界で戦う方法はある。
ひ────、死ぬ! 大丈夫、死なない。これはレーシングシミュレーターの世界での戦いだ。でも命がチリチリと燃えていくようなマンガだ。
『命がけでもたりないのさ』はおとぎ話じゃない。2019年の国体でeスポーツが正式種目になった。この関東予選を観に行ったことがある。試合会場は百貨店の特設フロアで、ふだんチョコレートや呉服を扱う場所にシミュレーターが並び、モニターの中で車が爆走していた。へんてこな空間だったけど試合も雰囲気もおもしろかった。
で、その大会には少年の部もあった。そこで小学生くらいの子がバキバキに車を運転する姿を見て心底びっくりした。子どものプレイの方がワイルドで面白い、という人もいたくらいだ。(さすが国体レベル、激ゆるゲーマーの私とは別次元の高度なドライビングテクニックでした)
「そんなこといったって、所詮ゲームでしょ?」という人がいることも、わかる。でも違うんだよ。
そう、これ! 現実ではできないことを自分の体験にできる。私は、現実では無免許だけど、PS4ではアストンマーティンのヴァンキッシュを運転する。(車に申し訳ないくらい下手だけど)
それにこんな瞬間を知っている。
勝ったときの、このたぎるような気持ち。これは紛れもない現実だ。
最高の青春がほしい
ヒロインの“加賀美唯華(がかみゆいか)”は高校1年生。「最高の青春がほしい」とバンジージャンプなどのエクストリームな遊びをやってみては満足できていない。刺激大好きっ子というかバンジーなんかじゃワクワクできない女子高生だ。
唯華が「このくらい」と示すワクワクハードルの微妙な高さには理由がある。
レーサーだった父親にとっての“アルちゃん”の好き度と同じ高さ。アルちゃんとは“スカイラインGT-R R34”のことだ。R34だからアルちゃん。
お父さんにとって、アルちゃんは唯華たちの次に大好きな存在。唯華は、そんなアルちゃんと同じような「青春を最高に楽しくしてくれる何か」を、アレじゃないコレじゃないと探している。
ある日の放課後、高校の部活紹介で「ゲーム部」の部長“杏奈”が半ば無理やり入部説明会を始める。
「学校でもゲームできるなんて最高じゃん」と喜ぶ私のような軟派ゲーマーなど決して参加できない厳しい組織だ。唯華の友達でゲーマーの“山本”も既に入部テスト不合格済み。なぜなら山本が好きなゲームはFPSで、入部テストのゲームはFPSじゃないから。ではこのゲーム部は何をプレイするのか?
レースゲーム専門のゲーム部なのだ。
女の子がジャージ姿でVRゴーグルをひっかけてシミュレーターに座ってるの、めっちゃかわいいな。
アルちゃんで世界を目指す
唯華は現実じゃ絶対に乗れないR34に乗ってみたくてゲーム部の入部テストを受ける。テスト内容は杏奈と1対1でのレース勝負だ。
ここからは仮想空間で車がギャンギャン走る。
レースのステージは公道で、しかもゲームの世界だからお邪魔要素として通行人もいるしトラックも走ってるしで大変!
このレースゲームが唯華のなかに眠るレーサーとしての資質を目覚めさせることに。
なんか本物のレースみたい。いや、唯華と杏奈は本当にレースで戦っている。
レーシングシミュレーターでは、現実に存在する車種が現実と同じデザイン・性能でゲーム内に登場する。(エンジン音も一緒!)
だから解説も現実のレースと一緒。杏奈部長、語る語る。
しかもeスポーツは既に世界中に熱狂的なファンがいて、大規模なスポーツ興業として成功している。
世界大会の動画は数百万回再生だし、賞金も最大で数十億円。入部希望者にひたすら厳しい入部テストを課してきたゲーム部は、この世界大会で勝つことを真剣に狙っている。
唯華もゲーム部の一員としてeスポーツに挑むことに。
最高の青春がやっと来たのだ。ゲームだから徹夜で練習できちゃうし、なんなら自分の過去のプレイと対決できる。そうやって自分の技術を磨くしかない。そう、遊びじゃなく完全に競技だ。
車好き、ゲーム好き、そして青春マンガ好き。全員を射程にとらえた作品だ。ちなみに私が一番「このマンガ、アツい!」と思ったシーンはこれ。
瞳孔がカッと開くようなガチのレースで、忙(せわ)しなくペダル操作をする唯華が履いているのは学校の上履き! かわいいけどかっこいい!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。