学校で教わるだけじゃ足りなかった
『JSのトリセツ』に出てくる女の子と男の子のことを私たちはよく知っているはずだ。
ブラジャーなんて本当に必要になるのかしらと恥ずかしかったり、
ボール2個を胸にくっつけてゲラゲラ笑ったり、一足先にブラジャーをつけている女の子にちょっと圧倒されたり。
第二次性徴のことは学校で教えてもらえる。でもそれは事実と仕組みだけで、それぞれの子どもが感じる「どうしよう」や「いやだな」については、自分でどうにかするしかない。
しかも「お互い、そっとしておこう」なんていうオトナ的気遣いができる年齢でもなくて、噂と、面白おかしく茶化す声もバンバン耳に入る。もう、勘弁してよと思った。いくら勘弁してと思ったって体の変化は止まらないし、謎に胸は痛いし(恋で、とかじゃなく、肉体的な事実として痛みがある)。
これ! ここを読んで思い出した! 本ッ当に痛かった! ふざけてタックルなんてされたら絶対許さなかった。当時の私が読んだら「ああ、日本中の女子は、やっぱみんなそうなのか……」と安心しただろう。描いてくれてありがとう!!
でも、ネガティブなことだけじゃなく、「うれしい」も身をもって理解する。これも授業ではわからなかった。
はじめてブラジャーをつけた日や、自分がかわいいと思う下着を身につけた日、うれしかったな。
『JSのトリセツ』はそんな女の子と男の子たちの物語だ。"JS"とは"女子小学生"のことで、10歳になった彼女たちが直面するこころとからだの変化を、少女まんがのキラキラした世界できちんと描く。
東京都港区から転校してきた男子がかっこいい。超わかる。少女まんがの「東京」って、本当にキラキラした夢の世界なんだよなあ。
そして「今」の物語でもある。
お菓子を食べながら動画配信を見て、同い年の配信主(美人でめちゃスリム)は日常の話をしつつ細さをアピールして、ダイエットや100均コスメの話題を振りまく。同い年の子が大勢にむけて発信する世界、私は知らなかったなあ……。
ひょっとしたら、親や大人が見たらハラハラするような世界かもしれない。でも「わかるなあ」と懐かしくなるし、「ようこそ」と両手を広げて彼らを迎えたくなる。
大人は本来あなたたちの1番の味方
本作は、下着メーカーのワコールが制作に協力している。(この作品がきっかけでワコールが実施する意識調査「10歳キラキラ白書」を知った。今まさに10歳の人たちが考える男女の違いや親子関係、恋愛や毎日のことがわかり、とても面白い。2020年の10歳女子が一番好きな服の色、何色だと思いますか?)
女の子のこころとからだが変化するときを、ワコールと「なかよし」が応援するエピソードが並ぶ。たとえば、主人公“ひまり”が勇気を出してはじめてブラジャーを選ぶとき。
大人になった今でこそ「かわいいー!」と下着屋さんに嬉々として入るけれど、小学生の頃は(というか高校生になっても)自分が場違いな存在に思えてドキドキしたな。
同じ目線で話してくれる店員さん。「サイズの計測は服の上からだから安心してね」って言葉を知りたかった子は多いはず。
なんて便利なサニタリーショーツ……!
タンポンは「もっと早く知りたかったよ!」と心底思った便利アイテムのひとつだ。大人が教えるんじゃなく、小学生同士が「いいらしいよ」と話しているところがすごく好きだ。
そして、第二次性徴をむかえると、胸のふくらみや初潮といった身体的な変化だけじゃない、こころも大きく変わる。
「誰と誰が付き合ってる」なんて話題もよく出たな。大人が「ひゃっ」と焦る話だ。
そう、大人が『JKのトリセツ』を読むと「子ども時代のおさらい」だけじゃない面もあるのだ。
大人と子どものギャップ。教室でブラジャーを茶化し合うだけじゃなく、親や先生との関係が難しくなることだってある。つまり大人側だって彼らの変化をはじめて目の当たりにする瞬間がある。大人の私たちが思っているよりも、10歳はずっと成長しているんだよなあ……。
これをきちんとメッセージとして伝えてくれてありがとうと思う。いろんな「はじめて」に一歩踏み出す10歳と、10歳が見た大人と、10 歳を見る大人たちが描かれている。学校や教科書だけじゃ足りなかった私たちのための少女まんがだ。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。