昔好きだった人から突然のプロポーズ。でもその人はヤクザの組長になっていたという設定に、誰もが私だったらどうするだろう……と考えるのではないでしょうか?
たとえどんなに好きだったとしても、親や生まれて来る子供のことを考えたら諦めるしかない、まあこれが一般的な考えだと思うのですが、このケースに限っては結婚もありかも?と思ってしまいました。
蓮見澪(はすみみお)は、3ヵ月前に母親を亡くし、失踪した父親が作った1,500万円の借金のため、ヤクザが家まで押しかけてくるという最悪の日々を過ごしていました。
しかも、看病のためOLを辞めてイラストレーターになったものの仕事はなし。
そんな時、偶然出会ったのが高校時代のバイト先の先輩、九条大和(くじょうやまと)。
実は九条は、澪から告白したにもかかわらず、速攻で振られた相手だったのです。
面倒見が良くて、いつも人の中心にいた九条との再会で恋心が蘇(よみがえ)った澪は、食事の後に九条とホテルへ。
いきなりの急展開!!ですが、よく知っている信頼できる相手と、心が弱っているときに出会えば、これは必然? 神様の思し召し? と思ったとしても無理はありません。
偉い! よく逃げた(笑)。
ところが、その日のうちに九条は澪の家までやって来ます。
怖いよ、九条~。
しかも「俺と結婚してほしい」って、調子良すぎてもっと怖い!!
さらに家まで取り立てに来た借金取りに対し、「蓮見澪は刃桜組若頭 九竜会組長九条大和が身請けする」と宣言し、1,500万円をポーンと支払ったのです。
私なら、今後は九条の言いなりにならなければいけないのかと思ってしまいますが、九条は「会わせてほしい人がいる」と言って、澪の母が眠るお墓に挨拶に行きます。そして、墓前で正式なプロポーズ。
実は澪の家に上がったときも、九条は真っ先にお仏壇にお線香をあげたのです。
これには、グッと来ました。昔、好きだったからというだけでなく、澪が九条に惹(ひ)かれていく気持ちがよくわかります。
こんな素晴らしい人間性の持ち主なのに、なぜ九条がヤクザになったのかというと、九条の父親は刃桜組組長だから。
組長の余命は1年。そして親子の間には、深い確執があるのです。
組を継ぐには所帯を持つのがルールなのですが、そこに立ちはだかるのが白咲(しらさき)代行。
見るからに悪人の白咲代行は、なんと九条の姉である灯里(あかり)の夫でもあり、今九条の実家は完全に白咲に牛耳られているのです。
唐突に思えた澪へのプロポーズもこういう経緯があったからなのですが、もう一つ九条にはどうしても跡目を継がなければならない大きな理由があったのです。
それは、組を解散し、組員を真っ当な仕事に就かせるということ。
蓮見さんを俺が絶対死ねない理由にしたい
こんなことを言われたら、絶対にこの人を守らないと!!と逆に思ってしまうのではないでしょうか。
全編を通して2人から感じるのは、「お互いがお互いを必要としている」ということ。辛い大変な時だからこそ、一緒に歩んでくれる人が必要なのだと。
こうして結婚した2人ですが、ふとした時にヤクザの習性が出る九条を怖いと感じ、いつか終わりを引き寄せてしまうのではないかと不安に思う澪。
正直、この不穏な空気が堪りません(笑)。待ってましたー!! と言う感じです。
第1巻は、それなりに色々あったものの、突然の結婚から、徐々に夫婦として絆を結んでいく話がメインでしたが、第2巻は波乱が起きそうなのです。
そりゃそうです、極道の妻になったわけですから。
この先、澪がどう巻き込まれていくのか、九条がどう変わっていくのか、これからが益々楽しみです。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp