命令口調、だけど私の「犬」
いろんな願望がつまった少女マンガです。
その1。
グイグイ来てほしい、私のペースを乱してほしい、でも荒っぽいのはいや。優しいのがいい。
その2。
ペットのように私にまとわりついてほしい。でもわかりやすく子犬っぽい人じゃなくて、かっこよくて、強い人がいい。
ぜんぶ、わかる~~~~! 『あらきくんは飼いならせない』が描くややこしくも可愛らしい願望は「私のことを溺愛してほしい」に集約されます。
こうやってヒロインが“あらき”を見下ろす場面がいっぱい。彼はうんと背が高い人なのに、ヒロイン“やっこ”の前ではこうなんです。ああ、いい。
女優の妹にはかなわない
“やっこ”は高校2年生。母子家庭で、美人でスタイルのいい妹“ゆの”は人気女優。現在、やっこはひとり暮らしです。母親は芸能活動に忙しい妹につきっきりだから。もう、ここで「うわー!」なんです。だって寂しすぎる。家族はそばにいないし、飼ってたネコすら妹は別居先に連れてっちゃったから。
でも、やっこは「しょうがないな」と言い聞かせています。妹は完璧だから。
身長といい、頭身バランスといい、愛されっぷりといい、やっこが「かなわない」と思うのは無理もなくて。
学校でもこんな感じ。「あの女優の“ゆの”ちゃんのお姉さん」なんです。妹のことは大好きだし、応援している。でもつらい! 表情も冴えない。つまり、甘える対象も、可愛がる対象も、自分の存在をわかってくれる人も、やっこには足りません。
そんなやっこの目の前に現れるのが人気俳優の“しがらきあらき”です。
こういう浮かれたサングラスをかけてもサマになる。左目の下のほくろがいい感じの男前で、国宝級俳優なんて呼ばれています。なんでそんな人がやっこの誕生日(しかもひとりぼっちのバースデー!)を祝いに?
あらきは、実は昔からやっこのことが大好きでした。3歳年上のあらきは、やっこと同じ学校出身で、おたがい顔見知りだったんです。
「俺を飼え」
いくら学校の先輩とはいえ、急に現れたあらきにやっこは困惑。なんにもない自分じゃなくて妹が目当てなんじゃないの? と。
で、前述したように、あらきが現れた日はやっこの誕生日。やっこは自分でご馳走をたくさん作って、母親と妹が帰ってくるのを待っていたんです。でも2人は仕事で帰れないことに。落ち込む! そんなやっこを見たあらきは……?
いい! 男の人が手を合わせて「いただきます」と言うの、めちゃいい! (やっこの料理がどれもおいしそうなので必見)
誕生日なのに家族は帰ってこない、ペットの猫もいない、やっこの寂しそうな姿を見たあらきは、何を思ったか「俺を飼え」と言い始めます。
たまらん。ちょっと悪そうで華やかな容姿だから余計たまらん。ここから始まるペットぶり、すごいですよ。
洗い髪を乾かしてくれるペット。こちらのペットは自分の居場所をGPSで一方的に共有してます。
でも2人は付き合っていないんです。そんなまさか! とひっくり返りそうになったけど、いや、今はまだそれが正しいよなと読みながら思い直しました。なぜなら、やっこは「自分には何もない」とずーっと思ってきた女の子です。
あらきは「寂しくないよ、俺がいるよ」と態度で示してくれる存在です。ペットって、ただただ愛情をくれる存在で、一緒にいると元気が出ますよね。君がいればいいや、って。そう思えたら、毎日が明るくなったり、誰かに優しくなれたり。そんな変化がやっこにも訪れます。
やっこがつぶやく「信じたくなっちゃった」に赤面しつつ、ああ本当に寂しかったんだなと思いました。「私はこの人にとって特別かも?」と信じはじめるやっこの胸騒ぎがすごくいいんです。そして、ペットって、こちらの愛情を受けとってくれる存在です。ここでやっこは自分の気持ちの変化にも気付きはじめます。
が、ペットのあらきは国宝的俳優でもあります。街に出れば色気を発しまくる彼の看板と出くわすし(渋谷のど真ん中!)、テレビをつければ妹と共演しているし……。前途多難。ああ、やっこが彼を飼いならせますように、そして楽しいペット生活が長く続きますように!
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『あらきくんは飼いならせない』の作品ページはこちらです。⇒http://go-dessert.jp/kc/arakikun
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。