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2020.12.02

レビュー

治してみせる。神であろうと! 現役獣医師が紡ぐ命の物語『神獣医』

自然災害のニュースを見る度に、なんで神様はこんな試練をお与えになるのだろうと思ってしまいます。
地球温暖化は人間が引き起こしているとはいえ、自然の脅威には逆らえないと、どこか諦めにも似た気持ちになっていたのですが、災害を未然に防ぐ方法があるとしたなら……。

大学病院に勤める朝井尊(あさいたける)は、難しい犬の手術も簡単にこなしてしまう凄腕の獣医。
ある日、コンビニに行く途中、いきなり拉致されてしまいます。
首謀者!?は、内閣府・特命防災局に勤務する神童新(しんどうあらた)。
神童はタケルの大学の先輩でもあるのですが、「非常識ですよ!」と抗議するタケルに対し、返した言葉は……、

神童にとって「馬鹿め!」は口癖と一緒。ことあるごとに馬鹿、馬鹿と言う様子は、わざと悪い言葉を言いたがる小学生の男の子みたいで笑えます。

そして車に同乗している巫女さんの姿をした少女も、初対面なのに口が悪いのです。


      
彼らが向かったのは、中央アルプス。
神童の研究によると、「神様が病気や怪我をすると霊気が乱れ災害が起こる」というのです。
今にも噴火しそうな山を登って行くと、そこに居たのは病に苦しむ麒麟(きりん)でした。

麒麟は龍の頭を持ち、胴は鹿で牛の尾と馬の蹄を持った霊獣。つまり神なのです!!
伝説上の生き物である麒麟をタケルはどうやって治療するのだろうと思ったら、出てくる病名も診察方法も治療法もすべて医学に基づいたもので、なるほど!!と思ってしまいました。
さすが現役の獣医さんが原作を書いているだけあって、説得力があります。

これも『神獣医』の面白さですが、私が好きなのは奇妙な!?出会いから徐々にお互いを信じ、見事な連携プレイを見せる3人と周りの人々とのチームワーク。
特に神様の使者なので“ししゃも”と名付けられた少女は、身を挺して懸命にタケルをバックアップします。



実は彼女の正体は、カラス。それもただのカラスではなく、3本の足を持つ八咫烏(やたがらす)なのです。

八咫烏といえば、日本サッカー協会のシンボルマークとしても有名ですが、元々は日本を統一した神武天皇を先導したとして、『古事記』や『日本書紀』にも出てくる神様の使者の中でも特別な存在。神話好きには、たまりません!

そんな彼らが「麒麟」の次に診療したのは「火の鳥」。この2つは伝説上の生き物ですが、日光東照宮の国宝「眠り猫」、見ざる・言わざる・聞かざるで有名な「三猿」や「鳴き龍」など実存するものも出てきて、この先どんな神獣が出てくるのか想像するだけでワクワクします。

個人的には、地震が起きないよう鹿島神宮と香取神宮の「要石(かなめいし)」が押さえ込んでいるという大鯰(おおなまず)も見てみたいし、青龍・白虎・朱雀・玄武、ペガサスやユニコーンも、どう描かれるのか見てみたい。
それから神様の使者である鹿や大神(おおかみ)も出てくるといいなぁと、どんどん空想が広がっていきます。

今後は、タケル、神童、ししゃもの3人に、獣医師と動物看護師がメンバーに加わり、戦力もアップ。
また、立て続けに起きた神々の異変は偶然ではなく、人によってもたらされた可能性があり、単に神獣の治療に留まらないストーリー展開も楽しみです。

命に違いなんてない

タケルだけでなく神童からも発せられたこのセリフに、人間も動物も神様も、命の重さはみな同じなのだと、改めて気付かされたスケールの大きな作品です。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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