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2020.10.04

レビュー

武器は唇。キスまみれの死闘!! 「におい」にまつわる衝撃ファンタジー

鼻が敏感すぎる男子高生のファーストキス

フンフンと気分よく街を歩いていたのに、ふと何らかの悪臭を感知したときの、あの損したような気持ち。「さては、ここを香水つけすぎた人が歩いたな?」と意味もなく気がつくとき。とにかく嗅覚は頼んでもいない謎情報をポンポン持ってくる。『らすときす』の主人公“犬上”くんの苦難を思うと気の毒だなあと思う。なぜなら彼は尋常ならざる嗅覚を持った男子高生だからだ。



嗅覚が良すぎて彼の日々は下水のなか。でも、一番「こりゃ大変」と思うのは、彼のファーストキスの内容とその相手だ。



絵としては完璧だが、この前後を読んでみてほしい。そして思い出してほしい。どんな美しい姿だとしても人間だって動物。つまり、みんな「臭い」を少しはまとっていないだろうか? この辺を想像しながら本作を読むと「ぎゃ~」となる。

じいちゃんを吸う“臭すぎJK”

前述したとおり犬上くんの嗅覚は敏感すぎる。そのせいで全ての人が臭く、それが態度に出るので(我慢できないのは誰しもが知っているはず)、人間関係を上手く育めず苦難の人生を送っている。



街でめっちゃ可愛い女子高生を見かけても……、



殺人的に臭いJKだったりする。本作の「臭い」の描写はマジで臭そう。

そんな犬上くんが安心できる場所は“じいちゃん”と2人で暮らす自宅だけ。



犬上くんが苦しまないように万全の体制で犬上くんを出迎えるじいちゃん。孫への思いやりと優しさが詰まっている……と思ったら!



さっきの激臭JKが家に上がり込み、タピオカミルクティーを吸っていた口で今度はじいちゃんを吸っているのだ。どうなってんの!

“キス”で戦う“消臭士”になろう

こうやって紹介しながら「私は何を言ってんだろうな……」という気持ちになる。まったく新しい世界なので先が読めなさすぎるのだ。この読めなさは1巻のラスト1ページまで続くので楽しい。

じいちゃんを襲った汚物臭のJKは“オデュール”と呼ばれる化け物で、犬上くんはオデュールを殲滅すべく戦う秘密の職業“消臭士”にスカウトされる。



スカウトするのは謎のセクシーお姉さん“才見キョウ”。彼の人並み外れた嗅覚は本作の世界においてすら「異能」らしい。犬上くんは究極の臭い探知機として活躍できるのだ。で、どうやって化け物を倒すかというと……?



どういうこと? ……ということで本作では「キス」がめっちゃくちゃ出てくる。嗅覚が敏感すぎる男には辛すぎる設定だ。まあ、見てるこっちはとても良い。

昼下がりの公園、子供たちが遊ぶ声を聞きながら遊具の影でキス。背徳感!



美しい男同士でキス。(しかし忙しそう)



謎ルールのキスゲームも出てくる。こんな呑気な名称だが実質殺し合いのような展開が待っている。ちなみに犬上くんの名前は“希巣(きす)”。どれだけキスづくしなんだ!

と、ありとあらゆるキスと死闘が繰り広げられるのだが、本作は嗅覚が鋭すぎて子供の頃からずーっといじめられてきた犬上くんが消臭士として立ち上がる物語でもある。



じいちゃんを悼むと同時に黒いレースの下着を思い出す犬上くん。いい。匂いの表現もすごくいい。

匂いと臭いとキスと化け物が入り乱れる世界が待っている。この謎の世界のルールを犬上くんと追いかけながら読んだあとは、表紙の可憐さが忘れられなくなるはずだ。



まつげも、唇も、上気した頬とまぶたも、ああ~こんなに可愛いのに……! そして紙の書籍のカバーを取るともっと最高な表情が待っているので、ますます複雑な気持ちになる。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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