最近は、ニュースもワイドショーもFacebookも、なるべく見ないようにしています。現実の世界には、不安や不快な気持ちを増長させるものが多いので。
なるべく心を平穏に、今日も1日健やかに過ごせたことを喜びたい。
そんな今の思いにピッタリなのが、『とんがり帽子のキッチン』です。
この作品は、2018年「全国書店員が選んだおすすめコミック」で1位を受賞した『とんがり帽子のアトリエ』の設定はそのままに、毎回、彼らが作る魔法の料理が出てきます。
いわば、『とんがり帽子のアトリエ』がONなら、『とんがり帽子のキッチン』はOFF。ステージ裏のプライベートを見ている気分です。
だから、何か特別なことが起こるわけではなく、魔法使いと弟子たちの日常が描かれているだけなのに、その和やかでリラックスした感じがとても心地いいのです。
主人公は、魔法使いで魔法の先生でもあるキーフリーと、同じく魔法使いで魔法器制作を生業とするオルーギオ。
タイプの異なる美しい男性2人が、弟子たちの野外授業のために夜明け前からお弁当を作る姿は、先生というよりお父さんとお母さん。
もちろん、お父さんは見た目がワイルドなオルーギオで、お母さんはしっかり者のキーフリー。
そうかと思えば、弟子たちが寝静まった夜のアトリエで料理やお酒を作り、大人の自由な時間を楽しみます。
いつも部屋に籠もり魔法器を作っているオルーギオに対し、気遣いを見せるキーフリー。
そんなキーフリーを少しでも助けたいと思う、心優しいオルーギオ。
この2人からは、言葉で言わなくても通じ合う男同士の友情や信頼感が滲み出ていて、ブロマンス的な美しさです。
そんな彼らも、ときには弟子のココ、アガット、テティア、リチェたちと一緒に料理を作ります。メインの食材は……。
この日のメニューは、「傘海月(かさくらげ)と山リンゴ」「傘海月のトロトロスープ」「とんがりパスタ傘海月のトマトクリームソース」という「大講堂の風物詩・傘海月づくしのディナー」。
ここに出てくる料理は全てレシピが載っているので、危うく私は騙されそうになりました。実在する食材なのかと。
「跳(とび)エビ」「水晶糖」「角(つの)キノコ」「殻芋(からいも)」「剣人参(つるぎにんじん)」「花弁葱(かべんねぎ)」「火焔豆(かえんまめ)」「浜胡瓜(はまきゅうり)」etc……。いかにもありそうな名前だと思いませんか。
食材だけでなく、調理器具も魔法の国ならでは。
特に「魔法鍋」は、繰り返しの魔法で、いつでもできたて熱々の料理が食べられ、何年も保存ができるのです。
大量に作ったカレーを保存袋に小分けして冷凍したり、考えただけで気が重い汚れた鍋を洗わないで済むなんて羨ましい!! と現実の世界の住民は思ってしまいました。
かかった手間や苦労もおいしさのスパイス
一番いい瞬間に食べるのが料理に対する礼儀だよ
何気ない言葉だけれど、キーフリー先生はやっぱりいいこと言うなぁ。
こんな穏やかで優しい世界が、全編に広がっている『とんがり帽子のキッチン』。
最後の「おまけまんが」が、また可愛いです。キーフリーとオルーギオのいつもと違う一面に、思わずクスッと笑ってしまいますよ!!
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp