読み終えたとき、ふわっと温かい気持ちになりました。
主人公は、16歳のJKの巫女と神社に祀られている621歳のエルフ。
この飛び道具2つ揃えました的な組み合わせは、下手をすれば「なんだかなぁ」となるところですが、『江戸前エルフ』は最後まで違和感なく楽しく読めてしまうのです。
3ヵ月前に巫女を引き継いだ小金井小糸(16)がお仕えする月島の「高耳神社」は、江戸時代より400年以上の歴史を刻む神社。祀られている御神体は、異世界から召喚されたエルフで、その名をエルダといいます。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」を観て以来、エルフといえば高貴で清らかで美しい存在というイメージが刷り込まれている私ですが、エルダは大違い。
徹夜でゲームをしたり、本殿でプラモデルを作ったり、食玩を集めたり、ネット通販をポチッとしたり、とにかく毎日をダラダラダラダラ過ごす俗物でダメな神様なのです。
しかも極度の引きこもりなのですが、なぜ、引きこもりになったのかというと……。
小糸の「昨日の事のように怒ってるけど、喜三郎さんもう70歳だよ!?」というセリフに、そうだった! エルダがあまりにも現代っ子の神様なのですっかり忘れてた、と思う私。こんな“笑いの不意打ち” 好きだなぁ。
そもそも、なぜ異世界のエルダがこの神社に召喚されたのかというと、
エルダ「約束なんだよ、400年前の友達との。自分の代わりに――、江戸を――、
この国を見届けてくれって」
小糸 「きっとその友達はエルダに未来を見て欲しかったんじゃないかな。
自分がいなくなっても続いていく世界をさ 」
限りある人間の命。
思わず、考えさせられる素敵なシーンなのですが……、
小糸 「その友達ってなんて人?」
エルダ「うん、徳川家康くんって言うんだけど」
ああ、油断してた! うっかりしてた! と、またしても不意打ちに笑ってしまいました。
こんな感じで、エルダと小糸の掛け合いが、とにかく楽しいのです。
また、400年前から月島の高耳神社にいるエルダは、江戸時代の事にも詳しいのですが、そのネタのチョイスが “庶民の暮らしに関わる事”であり、“今も引き継がれている事”なので、思わずへえ?面白い!と思ってしまいました。
大昔に実際に見たものを話してくれる人がいるって、実はすごい事なんだなぁと、この歳になって思うようになりました。
1964年の東京オリンピックってどんなだったの? 私が生まれたときってどうだった? と聞いてみたくても答えてくれる人はもうおらず、一抹の寂しさを感じていたので、高耳神社の氏子であるお婆ちゃんのセリフにはグッと来ました。
あたしくらいの歳んなると家族もツレもどんどんいなくなっちまうってのに、
エルダはあたしがガキの頃から変わらず高耳神社に居てくれる。
やっぱし変わらないものがあるってのは、安心するよ
笑わせておいて、ほろっとさせる。
実はこれって凄く難しいのですが、『江戸前エルフ』はそれをそっと挟んで来るのです。だから面白いだけでなく、読み終えた後に心地良さが残るのです。
小糸とエルダの掛け合いだけでなく、小糸の妹と親友も加わり賑やかになった上に、今度はライバル的な!?神様らしきエルフと従者も現れ、こりゃ絶対に面白くなるでしょう!と思ってしまいました。
巻末のオマケの絵も、思わず身を正したくなる清々しさと笑いがあるので、是非、ご自分の目で確かめてみて下さい。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp