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2019.08.31

レビュー

日本列島を揺るがす精神直結コミカライズ『ヒプノシスマイク』

拡大が止まらない

「私、大阪城ホールにどうしても行きたいんです……!」グラスをギュッと握りしめながら振り絞るような声でつぶやく友人を見て、事の大きさを実感した。ヒプノシスマイクの噂は耳にするたびに話の規模がどんどん大きくなっている。

最初は「ラップがめちゃくちゃ良いんです!」という話だった。その時点で、楽しそうな表情で語られるパンチライン強めのエピソードが忘れられなかった。それから数ヵ月後、伊勢丹の前で信号待ちをしているところに爆音でラップを流すアドトラックが横切った。「これ、絶対ヒプノシスマイクだ……!」と目が釘付けになった。ついに目の前に来た! と。

ヒプノシスマイクは、男性声優がバッチバチのラップミュージックを歌うプロジェクトで、キングレコードが音楽を原作として展開しています。楽曲の製作陣は日本のラップミュージック好きなら「おっ!」と思うような一流メンバーばかり。そして「ラップミュージック」と「キャラクター」に夢中になる人が続出しています。

……夜の新宿のヒプマイトラックはなんとも魅力的でした。キャラクターのビジュアルも綺麗だったし、声と滑舌が美しくて情感を込めるのがうまい声優がラップを歌うとこんなに映えるのね……としみじみ。もっと聴きたい! ということで、それからは自分のテンションを上げたいときにリピート再生しています。

そのプロジェクトが今、声優によるライブで大阪城ホールを満員にするどころか、チケットが入手困難になっているという。大阪城ホールってめちゃめちゃ大きい……。『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- side B.B & M.T.C』は、そんな熱狂的なヒプノシスマイクの世界のコミカライズです。

「武力」の代わりに「マイクを握る」世界

ヒプノシスマイクの世界設定を簡潔にわかりやすく説明しているページがあるので、まずはそちらを紹介します。



武力の代わりに、「人の精神に干渉する特殊なマイク」を握って、リリックを駆使して戦います。なので街角の小競り合いもこんな感じです。



マイクをギュッと握る=ファイトの合図です。ラップは、語彙のセンスも歌うスキルもリズム感も全て重要。だから、歌い手の「力の差」がわかりやすい分野だなと思います。そんなラップバトルの猛者たちが、ヒプノシスマイクの主人公たち。

まつりごとは“中王区”で女たちが仕切り、それ以外のディビジョンで、男たちがラップバトルを繰り広げています。主人公たちは各ディビジョン代表のMCグループです。

本作では“イケブクロ・ディビジョン”の“Buster Bros!!!”と“ヨコハマ・ディビジョン”の“MAD TRIGGER CREW”がいかにして結成されたかが描かれています。

“Buster Bros!!!”

まずイケブクロ・ディビジョンから。“山田一郎”は、山田3兄弟の長男です。萬屋ヤマダという便利屋さんを経営しています。



3人1組のディビジョンラップバトルに参加するにあたり「誰とチームを組むかな」と思案中。



それを聞きつけた弟たち“山田二郎”、“山田三郎”が、チームに入れておくれよと駆けつけますが……。



一郎は彼らに試練を与えます。かつてチームを組んでいた“飴村乱数(あめむら らむだ)”と“神宮寺寂雷(じんぐうじ じゃくらい)”からの「とある依頼」を解決せよ、と。

3兄弟のチーム“Buster Bros!!!”の信者である友人は「最初、他のキャラクターの名前は漢字が読めなくて……シンプルな名前の山田3兄弟が気になって、好きになった」らしい。恋愛でも、コンテンツでも、好きになる最初のきっかけって人ぞれぞれだなと思う。



ラップバトルにおいては兄弟相手といえど手加減なし。さあ、二郎と三郎は、一郎の試練を乗り越えられるのでしょうか?

“MAD TRIGGER CREW”

一方、本作で描かれるもう1つのディビジョン、“ヨコハマ・ディビジョン”はと言うと。



なんだかアウトローなラップバトルが始まろうとしています。「違法マイク」にも一切ひるまないこの人物は、“碧棺左馬刻(あおひつぎ さまとき)”、25歳のヤクザです。左馬刻の「ニヤッ」とした表情からは危険な香りがしますが、ここから連想されるものは? そう、圧倒的かつ荒々しい強さです。 



そんじょそこらのチンピラによる精神攻撃じゃビクともしません。



無秩序で暴力的なリリックで、元軍人の“毒島メイソン理鶯(ぶすじま メイソン りおう)”を圧倒します。そんな左馬刻は、警官“入間銃兎(いるま じゅうと)”にも一目置かれています。ヤクザと警官の持ちつ持たれつな関係も良い。この3人が、“MAD TRIGGER CREW”としてラップバトルに参加することに。


“イケブクロ・ディビジョン”と同じく、こちらでも激しいラップバトルが繰り広げられます。



一人称が「小官」な元軍人、メガネと黒い革手袋が似合う警官、くわえ煙草がセクシーなヤクザ。“MAD TRIGGER CREW”の、いろんな組織からデキる男が集まった感も良いし、



“Buster Bros!!!”のブラザーフッド感もヘルシーでアツくて良い。ああ、どっちを見ても良い……!

そう、ヒプノシスマイクの男たちは、「素敵」と感じるツボのどこかしらを絶対に押してくるんです。だからCDを何度も聴いてしまう。そして、その音楽がむっちゃくちゃ良いので、キャラクターをますます好きになる……これのループが渦を巻くようにずっと続くんです。

その結果として、各ディビジョンのチームを「うちのチーム」と呼び、熱烈に応援するファンが生まれたのだと思います。音楽から入ってコミックで世界を完成させるもよし、本作を読みながら音楽に度肝を抜かれるもよし。どちらにせよ脳天直結間違いなしなので、なるはやでヒプノシスマイクの世界に来てほしい。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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