「この声優さんでなければ、もっと面白かっただろうに」
映画やアニメを見てそう思ったことはありませんか。これなら、私にも声優ができるんじゃないかと。もし、あなたが声優になる道を選んでいたら……。
『ボイスラ!!』は、そんなあなたにリアルな違う世界を見せてくれます。
主人公の獅子吼灯士郎(ししくとうしろう)は、中学生の時、ヤクザからスカウトされたと噂されるほどのヤンキー高校生ですが、一緒に暮らす妹に対しては優しいお兄ちゃん。
絵の才能を持つ妹を美大に行かせるため、スター声優が大勢いるKプロダクションの声優養成所の入所試験を受ける決意をします。
というのも、声優界のアカデミー賞と言われる「ボイス・アーティスト・プラチナム」通称「ボイプラ」で1位に選ばれれば、1,000万円の賞金が貰えるからです。
声優のオーディションって何やるの? まずは、そこが気になりますよね。
Kプロの場合は「60秒の自己PR」「ナレーションの朗読」、そしてマイクの前でアニメのワンシーンをAとBの掛け合いで喋る「課題」の3つ。
このシーンは、読んでいてワクワクしました。まるで自分がオーデションを受けるみたいで。
実際に課題となった原稿が載っているので、自分だったらこう喋ると想像しながら読んだのですが、これが意外に難しいのです。「ぐっ ぐっ」とか「くっ……」という擬音をどう言えばいいのかもわからないし。
実は昔、「ドラえもん」の台本を見せてもらったことがあるのですが、ドラマの台本と違い、確かに擬音がいっぱいでした。
こうした細かい部分もリアルに描かれているので、この先も期待が高まります。
『ボイスラ!!』のオーデションのシーンでは、灯士郎が灯士郎らしい自己PRをして審査員の笑いを誘います。
これだけでも十分にインパクトがあるのに、セリフを喋る「課題」では相手の声に合わせ、ほかの受験生とは違う喋りをします。
灯士郎は、「色聴(しきちょう)」といって音を聴いた時に色彩感覚が伴う「共感覚」の持ち主だったのです。
この言葉は、私自身初めて知りました。マンガの世界だけの話かと思ったら、こういう特別な感性を持った人が実際にいるようです。
この非常に珍しい「色聴」の持ち主は、過去のオーデションにも1人だけいました。それはこの5年間、声優界のアカデミー賞「ボイプラ」で1位を取り続けているレジェンド、神常成(じんときなり)。
なるほど、この神常成と灯士郎が、将来トップ競いをするのだな、どんなカッコいい声優なんだろう神常成ってと思ったのですが、神常成の顔は第1巻には出てきません。後ろ姿だけです(笑)。
ズルいなぁ、ニクいなぁ、次号まで引っ張る気かぁ。
でも、神常成に限らず、養成所でのライバル雲類鷲司(うるわしつかさ)も、なかなかの強者なのです。なんたって幼少期を海外で過ごした経験を持ち、ドイツ語、フランス語、英語が堪能。声質、発音、容姿、運動神経すべて良く、オーデションでは満場一致でトップ合格した逸材なのですから。
結局、養成所のオーデションには、灯士郎、雲類鷲司を含めた7人が合格。
一番の劣等生は灯士郎で、早口言葉の練習では噛むだけでなく、それ以前に漢字が読めないという落ちこぼれ。1人だけ別メニューをやらされます。
もちろん、私もこの割り箸ボイストレーニングを試してみましたが、これがうまくいかないのです。そもそも、奥歯で割り箸をハの字に噛めない。私も灯士郎と同じで、それ以前のことが出来ない落ちこぼれだと痛感しました。
話は、灯士郎と雲類鷲司が、大規模なアニメイベントの舞台に大抜擢されることになります。その理由は、バク宙ができたから。
声優なのにバク宙? この経緯はマンガで読んでもらうとして、今回、私の心に一番刺さったのは、選考方法に不満を持つ生徒に対して、講師の桐ヶ谷ほまれが言い放った言葉。
この先、灯士郎が厳しい声優の世界で、どんな理不尽と不公平に立ち向かい成長していくのか、今から楽しみな作品です。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp