「胸キュンラブ」を求めて少女漫画や女性向け漫画を読む人は少なくないもの。そして、その中には「お兄ちゃんとの禁断ラブ」が好きな人も少なくはないだろう。
だがしかし! そんなあなたはご用心。
この漫画、『私の正しいお兄ちゃん』というタイトルで、絵のタッチも線の細い少女漫画系ではありますが、中身は禁断ラブとは全く違う、サスペンス&ラブなストーリーでござります。
謎に満ちた展開の中、「キュン♡」から、「怖っ……!」に突き落とし、「えっ? どういうこと?」から「その切なさ、わかる!」に揺り戻す、いろんな意味でドキドキ・ハラハラさせてくれる、油断ならない内容なのだ。
主人公の木崎理世は、「お布団の中の暖かさがあれば、それで幸せ」という内気で真面目な女子大生。物語は、そんな彼女の何気ない日常から始まる。
スーパーでレジ打ちのバイトをしている理世は、従業員の中でもイケメンと評判の内田海利に話しかけられ、真っ赤になってしまう。
ここからラブな展開が始まるのかと思いきや、理世は「お兄ちゃんが大人になったら、ああいう感じなのかな?」と横目で見る程度なのだ。
さらにページをめくると、彼女が複雑な事情を抱えていることが見えてくる。幼い頃に両親が離婚し、それ以来、会えていない兄を今も慕う理世は、「いつか捜し出し、一緒に暮らしたい」と願っている。バイト先のイケメン先輩、海利のことがちょっぴり気になるのは、大好きなお兄ちゃんと同い年で、外見や仕草も似ているからだ。
だが、理世の記憶に浮かぶのは、“眼帯”をしている幼いお兄ちゃんなのだ。ただのブラコンではないことを予感させる、不穏な空気が漂っている。
一方、バイト先のイケメン先輩・海利は、理世に急接近する。
休憩時間にうたた寝していた理世が目を覚ますと、その肩にもたれるようにして海利が眠っているというドキドキな展開に。
実は、海利は、よく眠れない体質であり、理世の隣でなら眠れたというのだ。
以来、「肩を貸す」関係となり、2人はバイト後のわずかな時間を、公園のベンチで過ごすようになる。理世は、海利に淡い恋心を抱くようになっていく。
一方、海利が「眠れない」裏側には、もっと複雑な事情があるようだった。理世が同郷の出身者だと気付いた瞬間、「誰にも気を許すな」「まだ2年も経ってない」と、彼は自室で思い詰める。
日頃の爽やかイケメンぶりから豹変し、追い詰められた表情が怖い……。ちょっと前のラブな空気感から一転、ヒヤリとさせられる。
翌日から、海利は理世と距離を置き、他の女の子に肩を借りるようになる。特別な関係だと思っていた理世はショックを受け、日常に戻ろうとする。
ところが、眠れない日々に苦しむ海利は、また「肩を貸してほしい」と現れるのだ。「やっぱり理世ちゃんじゃないとダメだ」「行かないで」とすがりつく海利。そして理世は、そんな彼を「ずるい」と感じながら、受け入れてしまう。
利用されているとわかっていても、「喜んでる自分が嫌になる」。
そんな片思いの切なさが描かれ、「わかる!」「そんな顔されたら受け入れちゃうよね~」という女性も多いのでは?
2人は海利の部屋に行き、同じ布団で眠る。「理世ちゃん、そこに居てね」と手を握ってくる海利が、またもナチュラルに愛おしい……。
しかし、理世はこの時、偶然に海利の日記を見つけてしまう。
そこに書かれていたのは、「夢を見るのが怖い」「夢にまたあいつが出てきた」「首を絞めた感覚がよみがえる」という衝撃的な内容だった……。
海利が眠れない理由は、「人を殺したから」……!?
物語が展開していく中で、理世の兄の謎や、海利の人殺しが本当なのかどうかなど、それぞれの事情が少しずつ明らかになっていく。
そして、理世と海利、2人の想いが近づいては離れ、絡み合う中、切なく揺れるそれぞれの表情も見所だ。
どこにでもいそうな2人のラブストーリーかと思わせて、それぞれの複雑な背景が見せる意外な展開。「キュン」と「怖さ」が代わる代わるに訪れ、ドキドキ・ハラハラが2倍増しなこの物語、続きが気になるっ!
レビュアー
貸本屋店主。都内某所で50年以上続く会員制貸本屋の3代目店主。毎月50~70冊の新刊漫画を読み続けている。趣味に偏りあり。
https://note.mu/mariyutaka