性同一性障害だった著者が性別適合手術を受けた記録を淡々と綴った『僕が私になるために』(略称『ぼくわた』)。多くの人々に衝撃と感動を与えた作品です。
その著者であり主人公である平沢ゆうな先生が今回描くのは、『ぼくわた』のテイストとは一転、戦争を舞台にした青春歴史スペクタクル! 第2次世界大戦中の1941年から1945年にかけてドイツを中心とする枢軸各国とソビエト連邦との間で戦われた独ソ戦です。
私は歴史もミリタリーもかなり疎い人間ですが、でもこの作品に強く心を動かされました。
ミリタリー素人でもこんなに楽しんでいるよ! と、その魅力・理由を説明していきます。
【だから面白い1】実在した、世界初の「女子飛行連隊」を題材にしている
1941年6月、ナチス・ドイツによるバルバロッサ作戦が発動します。ドイツ軍が不可侵条約を破り攻撃してきたのです。
その空爆により家族と友人を失った主人公のナージャ。
悲しみにくれる中、女性反ファシスト会議の現場からマリーナ・ラスコーヴァ少佐がラジオで演説を流しました。P.58
―――戦車の操縦士……歩兵……そして……パイロットとして! 少女たちよ……今こそ立ち上がり正義を示すのです! 布告もなしに条約を違えたドイツへの厳しい報復の時がやってきました! 乙女(あなた)たちに……翼を授ける者です―――
この演説こそが、第586~第588の女子飛行連隊の産声(うぶごえ)でした。
世界初のミリタリー×女の子の原点ともいえる実話のスタートです!
もうこの題材だけで面白くないわけがありません!
【だから面白い2】「歴史の観測者」という主人公たちの立ち位置
女子飛行連隊は実在しましたが、ナージャ、スラーヴァ、イヴァンの3人の主人公は、実在した人物ではありません。
平沢先生は言います。「反ナチ、反共産主義、どちらかの思想に偏りたくない。だから歴史の観測者としての主人公が必要だった」と。
ロシア人で女性飛行連隊に入隊するナージャ。
戦争で国も自由も奪われ、結果反ソ感情の高まりからナチスを受け入れたウクライナ人のイヴァン。
いつまでも一緒だと思っていた友情は戦争という悲しい運命によって引き裂かれる……。今後の展開がどうなるのかドキドキです。
また女子飛行連隊のメンバーであり、世界で最も敵機を撃墜した女性エースのリーリャ。
実力は不足しているけれど何か強い信条や背景を背負っているレーナ。
彼女たちの人間模様、戦闘シーンの厳しい表情と普段の優しい姿のギャップも見どころです!
【だから面白い3:ミリタリー初心者でも楽しめる少年漫画風バトルシーンに興奮】
ソ連から見た第2次世界大戦の記録というのはとても少ないのです。特に日本語の文献がほとんど無い中、英語やロシア語の文献を辞書を片手に読み解き、ロシアに実際に取材にも行き、戦闘機も一から勉強した平沢先生。
それらの知識を整理し、一度全部壊してから、日本人のためのエンタメ漫画として再構築したという本作品。
ミリタリー初心者でも楽しめるよう、少年漫画のバトルシーンのような読み口にしてある親切設計です!
「ミリタリーものは初めてで……」
そんな方にも肩肘張らずに楽しんでいただける優しい演出になっています。
【だから面白い4:漫画では描き切れなかったコラムの情報量がすごい!】
さらに漫画では描き切れなかったコラムの情報量が膨大で驚きます! しかもわかりやすい!
これもぜひ読んでいただきたいポイントです。
テーマは各キャラクターに関するエピソードはもちろんのこと、
・戦隊で女性の髪は切らされたのか?
・『しらそま』で描かれる装備は旧型? 新型?
・ソビエトとウクライナの関係
というミリタリー情報について、
さらには
・ロシアンティーのジャムは入れるのか舐めるのか!?
といった面白コラムも!
平沢先生いわく「少女漫画の王道構成を、少年漫画の演出で描く、軍記青年漫画というとんでもない作品に……」。
本当にとんでもない漫画です。少年漫画ファン、少女漫画ファン、ミリタリーファン、いろんな人がいろんな立場や角度から楽しめる懐の深い作品です。
自由と平等、貧困と差別……そんなことを否応なく考えさせられる時代を懸命に生きた女子たち。そこに現代の我々の姿を重ねてみると、この世界に一気に入り込んでしまうでしょう。きっと感じることは多いと思います!
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レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。