見たことのない「異様な世界」
どれどれと読み始め「待ってマジか」とギョッとなり、読後はヘトヘト。『シチハゴジュウロク』ってカロリーむちゃくちゃ使うマンガだ。なので、念のためごはんを食べて用事もキチンと済ませてから読むことをおすすめします。
どこから紹介すべきか迷う。とにかく異様なマンガなんですよ。物語を構成する各パーツは普遍的なのに、それらにガツンと圧力かけまくって組み上げた世界がとんでもなく異様で。
ただじゃ済まなかった。動揺しすぎてこっちは寝坊するとこだった。
煩悩男子の煩悩リスト
主人公“五六冴郎(ふのぼりゴロー)”は世界中のどこにでもいそうな夢みる16歳男子。
素直。映画「死ぬまでにしたい10のこと」のようにゴローにも「これをせずに死んでたまるか」のリストがあり、10どころか100も書き連ねてます。
すべて女の子がらみ。学校ではミステリー研究会に所属中。……実はこれらもフラグで、あとでボディブローのように効いてくる。
ある日、「ゴローの死ぬまでにしたい100のこと」のナンバー22「溺れた美少女を人工呼吸で助ける」がウッカリかないそうな事態に。
この流されてきた美少女が本作のヒロイン“藤宮しちは”。女の子が空から降ってくるんじゃなく川から流れてくるって少し不穏だな。
ゴローが人工呼吸(ゴロー的にはキスと同義)を施そうとするも、冒頭の予言めいたセリフを残して立ち去ります。「私とキスなんかしたら、あなた、ただじゃ済まないよ」……ここまでのゆったりとした展開がなんとも不思議だ。ジリジリ暑い日本の夏の描写も良い。
そして、ここから一気に不吉度が急上昇し、本作の異様さが立ち上ってくる。
キス、そして予言は的中する
「ただじゃ済まないよ」なんて言われても、キスは、まあ、しちゃいます。
キス後、しちはちゃんの“何か”が始動。
この一連のシーンの匂い立つような奇譚ぶりは絶対読んでほしい。
絵もセリフも綺麗で怪しくてたまらない。で、「なんか始まったんだね……」ってポーッとページをめくってたら急にゴローが電車に轢かれて死んじゃうんですよ。無慈悲に。
しちはちゃんが怖いことを言いながら再登場します。
死体になったゴローに再びキスをすると、ゴローは死なず、代わりにしちはちゃんが礫死体となって線路にゴロリ。
しちはちゃんに備わった「力」は、「キス」をスイッチにゴローの身代わりとなる、というものなんです。読んでるこちらは呆然。
ラブコメとミステリーも同時進行
困った、ここまで書いて1巻の3%も紹介できてない。
本作の異様なところは、「怪奇物語(大ボリューム)」と同時に「ミステリー」も「ラブコメ」も盛り込んでいる点です。こんなに欲張っても整ってるってどんな世界だって思う。
しちはちゃんは「(轢死させた)犯人をさがせ」とゴローに告げます。冒頭でも紹介した通り、ゴローはミステリー研究会のメンバー。勘がいいので事件の核心を見つけがち。
しちはちゃんはギッチギチにシリアスな呪い系少女ですが、「女の子」としても大変魅力的です。
吸い込まれそうにかわいい。このままいけばゴローの「死ぬまでにしたい100のこと」はかないそうな気がする……。
そして、これらの要素は箸休めとかじゃなく、すべてが本筋。「謎解き」と「しちはとゴローの関係」と「身代わりの力」と「呪い」は、ひとつの物語につながります。
呪いを解くために、あと「6回」2人は殺されないといけません。謎は山積み、不気味でたまらない、死ぬまでにしたいことは100もある、でも「6回」と言う数字はハッキリ示されている。大変なこともマイルストーンがあると頑張れる。ニクい!
こうやって大騒ぎしながら読むうちに、『シチハゴジュウロク』という奇妙なタイトルの意味も少しわかってくる。呪われた“しちは”と“ゴロー”は、2人でひとつ。「君のためなら死ねる」なんてかわいいもんじゃなく、殺されまくって死にまくって謎を解く。
……ああ、こんなに目まぐるしくて激しくてニヤッとなるマンガ、読んだことない。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。