少年法によって、未成年は殺人を犯しても、顔も名前も世間に明かされることなく、社会復帰ができる日本。遺族にとって、「終わることのない悲しみ」は続くが、過去に凶悪犯罪を犯した元・少年たちの中には、社会復帰をした後、まるで反省などしていないように見える者がいるのも事実だろう。
この物語の主人公は、少年犯罪の被害者遺族。8年前、3人の少年に姉を殺された望月和だ。
大学生になった彼は、姉の命日に墓参りをした後、復讐への強い思いを燃やす。「姉を殺めた人間が、今どんな生活をし、犯した罪をどう認識しているのかを知りたい」「もしも連中が罪の重さを理解できていないようなら、僕がこの手で理解させてやる」と。
頭脳派の和は、復讐に向けて緻密な計画を練り、すでに弁護士を通じて加害者3人にGPSを仕込んだお守りを渡していた。姉の命日から数日後、その1つが動き出し、和はいよいよ大人になった加害者・馬場騎士と対峙することに。
和が予想していた通り、馬場は自分の犯した罪を一切悔いていなかった。そして、「レイプされて殺されて当然」と言い放った挙句、バイクで和を轢(ひ)くという凶行に及んだのだ。
さて、ここからの展開がこのマンガのキモとなる。病院で意識不明に陥っていた和は、幽体離脱をしてしまうのだ。
幽体のまま院内をうろつく和は、偶然、同じ病院に入院していた近所に住む少年・建人を発見する。和はなぜか建人の夢の中に入り込むことができ、かつ、虫歯が痛いと泣く姿を見かねて、グラついていたその歯を抜いてあげるのだ。
翌日、病院のベッドで目を覚ました和は、それがただの夢ではなく、実際に起きた出来事なのだと知る。
そう、和は「睡眠中に他の人の夢に入り込み、物理的な影響を与えられる」という、不思議な能力を手に入れたのだ!
緻密な頭脳派の復讐劇かと思えば、そこに「不思議な能力」というコンボ。もしもこの未知の能力を使いこなせば、和は誰にも知られることなく復讐を果たすことができる。
冷静沈着に不思議な力の謎を解き明かしながら、再び完全犯罪を実行するための策を綿密に練る和。2つの要素に加え、被害者遺族としての心情も複雑に絡(から)み合っていることで、和の考えや行動の裏側は読み難いものとなり、安易な想定など、ことごとく裏切る展開をしてくれるのだ。
「なぜこんな行動に出た?」「あっ、そういうことだったの?」が、次々と訪れるその流れは、暗いテーマなのに小気味の良さすら感じるほどテンポがいい。
そして、画力の高さもまた魅力だ。多様なアングルの構図と、精緻な描き込みで物語にぐんぐん引き込んでくれる(個人的には、もうちょっと大きい判型で読んでみたい気持ちもある)。先の読めないスリリングな展開の中、油断ならない緊張感を味わうことができる良質のクライムサスペンスと言えるだろう。
レビュアー
貸本屋店主。都内某所で50年以上続く会員制貸本屋の3代目店主。毎月50~70冊の新刊漫画を読み続けている。趣味に偏りあり。
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