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2018.11.25

レビュー

欲望、勇気……カタチの無いものをドロボウに盗まれた時、人はどうなるか?

何を盗まれたらそうなるわけ?

怪事件の真相は、意外と「え! そんな理由!」というものが多い。



そもそも「そんな理由」を考えつかないから奇っ怪なわけだが、理由があきらかになってギョッとしたあと、じわじわ「なるほど……」と納得し、やがて不気味な後味がベットリ残る。

『概念ドロボウ』は、「ドロボウに“なにか”を盗まれた」ことによって始まる怪事件と、「そんなもん盗んだの!?」までの解決フローをスタイリッシュに描く推理マンガだ。



主人公の私立探偵“如月ウロ”がこの調子でキレッキレに解決してゆくのだが、ワトソンくん的な癒(いや)しポジションである新米刑事の“有馬”さんと同じく私も新米読者。




名探偵のドライで天才的な推理を口半開きで見ている感じだ。


ほんと、何を盗まれたらそうなるの? 


事件から逆算してあぶり出す「盗品」

金品を盗むドロボウの事情はなんとなくわかるし、下着ドロボウもギリわかる。 が、サドルドロボウまで行くとうつむいてしまうし、電線ドロボウだって「銅を売る」という事情を説明されても「ヤバいな」と思うし、そういう斜め上な窃盗は警戒しづらい。

本作に登場するドロボウたちが盗むものは「概念」なのだが、そもそも概念ってどんなものだと思います?



こういうふわっとしたものたちです。「心を奪われて」みたいな常套句を言うのは気恥ずかしいし「愛と勇気が友達だよ」と正面切って言えるほどの自信がが私にはないけれど、でも何かしらの概念は誰でも持っている。そういう「誰でも持っている無形の何か」を異能者たちがバンバン盗んでゆくのだ。



こわ! 盗まれた人間がどうなるかと言うと……



ヨダレだらー程度なら可愛いものだが、盗まれたことをきっかけに死ぬ場合がほとんど。どうやら異能者ごとに盗める「概念」は異なり、各自一種類らしいので、事件ごとに被害者が歩む悲劇は違う。なので、事件から「何を盗られたの?」を推理するのが本作のお楽しみの1つでもある。

盗むなよ

「そんなもん盗るなよ、なにやってんだよ」というのが私から全ドロボウに言いたいことなのだが、つまり「おまえ何ドロボウ?」という点とあわせて彼らの「動機」を想像するのも面白い。



このドロボウとか大変良い。彼の行動のいっこいっこが「動機」を物語っている。まずは全裸でダビデ像(地方のパチンコ屋に時々こういうのがある)と向かい合い、伊勢丹メンズ館みたいなお部屋で身支度をキメて、時計はランゲ・アンド・ゾーネだし、香水だってドンキで売ってる安い香水とかじゃなく英国王室御用達のメゾンフレグランスだし、あーっ! こんな人ドロボウじゃなくても絶対面倒くさい! そう、概念ドロボウたちはみんなちょっと面倒くさい。



実はこのクセの強そうな如月ウロも異能者です。だから概念ドロボウたちと渡り合えるのだが、なんでドロボウを追い詰める側になっているんだろう……。



……とまあ、気になるところだらけで「続き早く!」と急かしたくなる感じがやっぱりアフタヌーンの作品だわと思うのだが、盗まれると大体怖い展開になるのでビクビクしながら読んでいる。(ウロと有馬さんの名コンビなやりとりにだいぶ救われている)

こんなに緊張してしまうのは、怪事件だけど「なるほど」と思い当たる節があって、どこか生々しいからなんだよなあ……。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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