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2018.08.18

レビュー

意味深で油断ならん。鬼才・石黒正数の『天国大魔境』が早くも話題に!

読もうぜ『天国大魔境』

少し前にバラエティ番組で「やっぱり上戸彩芸人」という名の上戸彩大好き特集があったが、私にとってアフタヌーンは「やっぱりアフタヌーン」だ。続きが気になって気になってハゲそうになって、しかも既刊はまだ1巻のみと気づいて「マジかー!」と頭を掻きむしってしまうマンガ。そういうのはだいたいアフタヌーンに載っている。

『天国大魔境』も「やっぱりアフタヌーン!」だった。全ページを「見落とすまい!」と読ませ、待つのが嫌いな私を「待つ女」にアッサリ変えてしまった。嵐の海をゆく大船に乗った気持ちだが、1人で待って、1人で読むのは、絶対もったいない。


美しき謎の「施設」と「崩壊した日本」

物語の舞台はふたつ。閉ざされた謎の「施設」と「崩壊した日本」だ。どちらの世界も美しく、謎にあふれ、おまけにまったく油断ができない。だから1人じゃもったいないのだ。

まず「施設」について。ヨーロッパの寄宿学校を思わせる静謐な世界だ。そこでは“子どもたち”が暮らしている。ロボットが身の回りの世話をし、クリーンで、大きな木も小川も畑もある。


そして子どもたちの多くから「才能」と呼ぶにはあまりに過剰な異能さを感じる。 

めちゃめちゃ上手に意味深な絵を描き続ける子。


身体能力が異様に高い子(見よこの躍動感!)。



そして第六感を持つ子。 


第六感の“ミミヒメ”はある日こう言う。



彼らは「施設」の外を知らない。

この「施設」と対象的な世界が、もう1つの舞台である「崩壊した日本」だ。



こちらの主人公は“マル”(つんつん頭)と“キルコ”(ロングヘア)。物心ついた頃には既に日本が崩壊していた彼らは「無法世代」なんて呼ばれている。「施設」が「静」なら「崩壊した日本」は「動」で、日本チームはよく動く。だいたいずっと移動中だ。彼らの目的は「天国」を探すこと。ほぼノーヒント。



どうも今より少し先の日本のようだ。



こんな強烈なのが飛んでいるので「日本マジで終わったんだな」と思う。

2011年の3月以降、こういう壊れた世界から受ける圧迫感やリアリティは昔のそれとは確実に違っている。自分と地続きの世界に思えてドキッとする。そして、こちらのボロボロな世界は、「施設」に負けず劣らず豊かで美しい。

なんでかっていうと、マルとキルコはもちろん、ここでサバイブする人々がみんな魅力的だからだ。食料も乏しい限界の世界でどうにかギリギリ生きている。そのギリギリなりの日々がなんとも怖くておかしくて美しい。



この“チンピラ集団”もすごくいい。情けなさと憎めなさがたまらない。

悲惨なことが起こり安心も安全も失われようが「毎日は続く」ことは確かで、それについても私はなんとなく実感がある。



毎日悲劇の話ばかりをしているわけではないし、やるっきゃないのだ。だから美しさを感じる。


盛り盛り

不思議な子どもたち、隔絶された施設、荒廃した日本、クリーチャーと光線銃(この銃は必見。これの仕様の話だけで小一時間ビールが飲める)、そして少年少女の冒険……1巻で既にてんこ盛りだ。こんなに盛り盛りなのに、1つも見逃せないし、ヘトヘトにならない。

例えばこういう風にスッと不穏な話がカットインされるんですよ。


この緩急が絶妙に気持ちいいのだ。まったく油断できない。ニクい!

1巻は、たとえるなら怪しく美しいお椀がずらっと目の前のテーブルに並べられた状態だ。お椀の中身がそれぞれ「美味しい」ことは約束されており、私はそのフタを開けてもらうのを待っている。はやく食べたくてしょうがない。

だから、やっぱり仲間がほしい。次のエピソードが出るたびに友達と「読んだ?」「読んだ!」と言い合いたい。が、そんな友達はいない。呼び出して、なんとなく本屋に誘導して「あとはLINEで!」と1巻が入った袋をグッと渡すか。重いな。

……と思っていたら今まさにモアイで1話が公開されています。ということで関係各位にリンクを送り倒してスマホで「天国」と打ったら「大魔境」と即サジェストが出るまでになった。「おもしろそうね、読むわ」と「買った」という返事をゲットしたので準備はできた。読んだ人と語り合いたいんだよ。この美しさにやられてほしい。さぁ冒険を始めよう。

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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