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2018.11.18

レビュー

【ヒットマンガの裏側】新人漫画家×新人編集者が週刊20Pに命を懸ける!

編集者という名のバディ

マンガに限らず「あとがき」で担当編集者への感謝を述べる作家は多い。昔はそれが不思議だった。そもそも編集者が何をする人なのか謎で、締め切りを催促する人?くらいのイメージだったのだ。甘い。本当は「この作家と、どういうマンガを作るのか」というコアの部分からズブズブに深く関わる人たちだ。



『ヒットマン』でひたすら描かれているのは「編集者とマンガ家」という関係の数々だ。アプローチや美学にはそれぞれ個性があるものの「一緒にマンガを作ってゆくバディ」として、作家と共に日夜(文字通りマジで日夜)働き続ける姿は、どの編集者も同じ。



そう、バディなんですよ。実際にマンガを描くのは作家だけど、編集者がいなきゃヒットは生み出せないし、そもそも連載ができないし、っていうか連載にこぎつけても売れなきゃ打ち切りだし、何よりいいものは作れない。



講談社全面協力?

物語は主人公の"剣崎"くんが講談社の新卒採用の最終面接を受けるところから始まる。大手出版社の新卒採用にチャレンジした人曰く「エントリーシートも試験も面接も倍率もマジ涙目」らしいので、最終まで進んだ剣崎くんの優秀さと熱意と豪運はここで結構担保されているのですが。

最大のアピールタイムで大好きな「御社のマンガ」を力説するも……、



"お祈り(=不採用だが今後のご活躍は祈ってくれるありがたい通知文)"だな剣崎。ところがなんでだか採用され(ここ大事なフラグ)、彼が配属されるのは「週刊少年マガジン編集部」です。

ここで剣崎くんは圧倒的事実を突きつけられます。


数字が全て。ヒットが全て。だからタイトルだって『ヒットマン』。

編集部のエースはこちらの"八神千虎"さん。



名前負けしない数字を持つカリスマ編集者。彼のセリフはどれも厳しい。

また、実際に多発していそうな「マンガ家志望者による編集部への原稿持ち込み」についても本作はリアルかつ痛烈な一言を決めてくれる。



まさにこのハズレカード行為で突撃してくるのが、マンガ家志望のヒロイン"小鳥遊"さんです。



彼女には言いたいことがいっぱいある。後述します。

出版社的世界の話に戻ろう。上司が飲みに連れて行ってくれる場所だってこれまた「いかにも!」だ。



新卒で即マッカランだよ! しかもソムリエがバーテンなゴリゴリのバーでカスク(このバー、実際いいお店)。都心のバーで良いウイスキーをちびちび一人で飲んでいる20代と話すと出版社率が高めなので、個人的にめちゃリアリティを感じた。

上記のような「出版社おもろい」な世界をぜひ楽しんでほしい。小ネタが全部いい(新人賞選考会の作品名はゲラゲラ笑った)。きっと、本当にこういう土壌があって、そこで泣いたり笑ったり怒ったりしながら作っているのだろう。



「面白い」って言ったから

で、ヒロインの"小鳥遊(たかなし)"さんです。

実はこの2人、冒頭の面接会場のシーンですでに出会ってます。小鳥遊さんも最終面接サバイバーだったんです。ところが再会した時には空気読めないマンガ持ち込み女子(しかも絵がド下手)という事態に。

それもこれも剣崎くんのこの一言が響いてしまったから。



初対面の人が自分の作品を読んで「これ面白いなあ」って素で言っているのを聞いちゃったら、しかもそれが人生の局面な面接会場だったなら。きっと、「運命を選べ」と言われた気がしたのだろう。

小鳥遊さんは「講談社で働く」じゃなく「マンガ家になる」に舵をきり、全てを賭けている。命がけだ。



だから余計に小鳥遊さんは綺麗な人だなと思う。ツンとした胸も可愛いし。

目指せ「週刊少年マガジン」

編集者の戦闘力を表す指針は「累計部数」でしたが、マンガ家である小鳥遊さんに用意されたパラメータはこんな感じ。



最初はスッカスカ。しかもこの歯ごたえありそうな表情。ネームのやりとりでもぶつかるぶつかる。でも、剣崎くんは、彼女と彼女との仕事において、大事なことを約束している。



こんなこと言われたら「マンガ家になりたい自分」と編集者を信じるしかなくなるよ。作者曰く「基本的にはほぼノンフィクション」ということなので、こんなふうに「信じよう」と思った瞬間が作者にもいっぱいあったのかも知れない。

このように、新人編集者と新人マンガ家の2軸で成長物語が展開されるのだが、なんせ舞台は「週刊少年マガジン」です。毎週毎週、泣いても笑っても毎週水曜日には絶対に日本中で雑誌が手に入る制作進行をどうやって実現しているのか想像もつかないけど「確実に大変だろうな」と胃がシクシクする。そんなキリングフィールドに2人は飛び込んだばかり。果てしない。

でも、伸びしろあるのみだ。まずは目指せ新人賞、そして連載(毎週20ページ連載するって絶対ヤバい。見たい)、そんでもってヒット!

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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