引き寄せたい!
「引きの強い女になる」みたいな見出しを女性誌で見かけると「なーにが引きだよー」とか思いつつフムフムと丁寧に読んでしまう。引きが強い人に、なれるものならなってみたい。不幸でも幸福でもなんでもいい(そりゃできれば幸せがいいけど、揺らぎの大きな要素だし、一旦おいとく)、強烈なものや、忘れ難いものを引き寄せたい。それらを引きずりまわして、引きずられて、大変な思いをしてみたい。
『阿部くんに狙われてます』の主人公“あかり”は、ひたすら「引きの強いヒロイン」だ。ちょっと大変そうではあるものの実にうらやましい。
引きが強すぎガール、あかり
あかりちゃんは、高校1年という少女漫画界で恋が最も多発してそうなお年頃を生きる普通の女の子。でも、幼なじみ(めっちゃ甘ったれ系美少年)の弟的な愛らしさにキュンキュンしており、「彼氏ほしい」というノリではない。
もはやここで「引きが強すぎガール」の資質がパーフェクトだと思うのだが、彼氏を作りたいとかじゃなく、可愛い幼なじみをヨシヨシしてたいんですよ。……作りたいとかじゃなく!
願いをかなえることも大切だけど、願ってもない予想外のものを引き寄せる事故体質もたまらなく素敵だ。(たとえば、カモメがバンバン飛び交う松島の遊覧船に乗って、なぜか乗客でただ一人フンをされてしまうプチ悲劇も「引きが強いね」と付け加えると、急にうらやましくなる)
で、何を引き寄せるかというと、手始めに豪快なシックスパックが現れます。
あかりちゃんと同じクラスの“阿部”。空手部のエースです。この仕上がりきった上半身を拝んでもピクリとすらしないヒロインの恋心に私は少しビックリしますが、すごいのはこの次。
シックスパックに続いてバスケットボールまで引き寄せます。
そりゃもちろん阿部も「ばっ」と出て来ますよ。美しい! 神様やってくれるよね!
かっこよく助けたはいいけれど、ボールを食らった空手部の至宝の手は赤く腫れ上がります。それを見たあかりちゃんが慌てて保健室に阿部を連れて行こうとして、この一言。
名言だと思う。アバウトかつ力強くヒロインの「引き」を表現している。あかりちゃんこの時点でも恋心ゼロ。
でも、これ以降、阿部とあかりちゃんの謎のラブストーリー(攻防)が始まります。
狙い続ける男、阿部
『阿部くんに狙われてます』というだけあって、勝手に引き寄せちゃうあかりちゃんとは対照的に、阿部はアグレッシブに自分の意志で引き寄せるタイプの男だ。そしてゴリゴリの空手部エースなので闘争心も強め。
私が読んでいるのはバトル漫画かなっていうアツいアプローチに笑いつつ、
こういう100点満点なドキドキもたっぷりくれます。あかりちゃんに「ゴリラ」とか呼ばれているし私も基本呼び捨てだけど、この瞬間は「阿部」じゃなくて「阿部くん」と呼びたい。
逃げるあかりちゃんと、それを追う阿部。あと、あかりちゃんは肉体美も安定的に引き寄せており、ひょっとしたら阿部は着衣より脱いでるシーンの方が多いかもしれない。見応えありで大満足だ。
上記のようなチェイサーとしての阿部を語ると、距離感ちょっとヤバめな男子(しかも脱ぎがち)かなと思うが、ここで「空手部のエース」という肩書きを思い出しておきたい。全国大会に出場できるくらい空手が強いということは、負けん気の物凄さと同時に勝負勘もある。だから「勝ちに行く」という強い信念でグイグイ迫りつつ「引き際」も見極めていたりする。
「嫌なの!」と言えば「悪かった」と引いてみるわけです。やるなゴリラ。あと、この引きのシーンでシャツを綺麗に着ているのが個人的にグッときた。
スッと引かれると、我々(と阿部)の期待通りあかりちゃんはこんなことになるし、
阿部は「決めてやる!」とばかりに再び猛攻ですよ。
もってけ! 阿部!
ということでずーっと攻め攻めの1巻となっている。もう、どうやったらこんなに引き寄せちゃうんだよ! いいなあ……。ちなみに、あかりちゃんの引きの強さにバスケットボールすら2度飛んできます。しかも理想的なタイミングで。本当すごいよ!
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。