ある日突然、両親が蒸発して路頭に迷うはずだった男子高校生、実(みのる)。彼の窮地を助けたのはマンションの隣の部屋に住むお姉さんだった……!
そんな美人で巨乳な隣のお姉さんはあろうことか蒸発した両親が遺した借金を全額一括で完済し、実をこれから先養っていくことを申し出る――。
男子高校生が美人で巨乳なお姉さんだなんてちょっと、色っぽい展開が! なんてことを想像してしまいますが、ある意味健全、ある意味不穏で尊い作品に仕上がっている『男子高校生を養いたいお姉さんの話』。Twitterで大いにバズったことが記憶に新しいこのお話、目にした方も多いんじゃないでしょうか。おねショタ? いやいや、男子高校生ではおねショタとは言えないんだけれども、カップリングとしてはよく見かけるものの、「養う」という母性全開の要素が加わることでなんだか格段に尊いものになっています。
お姉さんが実くんを想う力が生み出すパワーワードの数々が飛び交い、細かいことはおいといてビジュアル面でもフィジカル面でも経済面でも圧倒的な包容力を持つお姉さんにこの身を委ねてしまいたくなります。このお姉さんの正体はマジで不明なんですけど。
名前も不明、仕事も不明なお姉さんが偏愛する男子高校生の実くんは、借金を作って反社会勢力に息子の内臓を売ってしまおうとする親の子とは思えないほど心身ともに良い子。自立心もあり、性欲も年相応。そんな彼が翻弄される様子はなんというかこれ萌えます。
そしてお姉さん。年齢、職業、名前まで不明でおっぱいおおきいという謎の存在なので、始めはちょっとしたサイコ感やメンヘラ感を覚えます。(いやその印象は必ずしも間違いではないのかもしれませんが)行きすぎた庇護欲以外はいたって正常、むしろ規律が正しいとすら言えるでしょう。軽率にATMになってしまおうとするものの、安易にセクシー路線に行かないお姉さんの矜持がまたグッときます。
こちらのほうは残念なお姉さん萌えクラスタに刺さるでしょう。
「君が健やかで居てくれたらただそれだけでいいよ」
これだけだったらお姉さんのそれ、何てステキな姿勢なんだろう……。って思うところなのですが、その前後に
「君を養う妄想で毎日貯金してたから」と
「たーくさん甘やかして一生養ってあげるから♡」というセリフが来ているのでもうなんというか台無し感がすごいです。
この台無し感こそ残念なお姉さん萌えにストライクなんですが、だがそれがいい。
以前本作がTwitterでバズった際に、作者の英貴さんが受けられた取材の中で、
「二次元だったり三次元だったり、さまざまな媒体への見返りを求めない一途な愛情を、友人たちの普段の会話や行動から引用したり、ヒントにさせていただいたりして生まれました」
と答えてらして、これは枕草子の151段『うつくしきもの』に通じる精神なのではないか、と勝手に深読みしてしまいました。さすがに実くんを稚児というのは彼に失礼だとしても、愛でる、慈しむ、それこそ「君が健やかで居てくれたらただそれだけでいいよ」といった見返りを求めない一途な愛情だなと。
若い頃の苦労は買ってでもしろという風潮から、苦労はしないですむなら越したことはないという風潮に移り変わりつつある現代に非常にマッチした価値観に膝を打つことしきりです。
もう1つ、脳裏によぎったのは、立場は違えどもこれは現代版の『あしながおじさん』ではないかということ。おばさ……お姉さんが過激ながらも学業の支援をしたり、生活の世話をしたりする姿は、ジャービス・ペンデルトンに重なり……? 重なります。
クラスメイトの友人・涼介が登場してきて、実くんとお姉さんとの関係にこれからいろいろな変化が期待できます。個人的にこの先こうなって欲しい展開を挙げると、実くんを狙う女子が登場してお姉さんが動揺したり嫉妬したり、涼介との男同士の仲にお姉さんが邪魔したり嫉妬したりと、実くんの友達に対して嫉妬してほしいと私は強く願っています。
実くんに尊さを感じてるだけじゃなくて、もっとむき出しのお姉さんの表情や反応が見たい。そこにわれわれ読者が尊さを感じたいなと思いました。そもそもお姉さんの正体をまず明かして欲しいと思いつつ、ですが。
お姉さんのヤバい人っぷりと、実くんの常識人っぷりが織りなす予想を裏切るテンションと反応に目が離せない本作、お姉さんはいつか実くんと結ばれて欲しいなと思いつつ、11月の第2巻を待ちわびるとしましょう。
レビュアー
静岡育ち、東京在住のプランナー1980年生まれ。電子書籍関連サービスのプロデュースや、オンラインメディアのプランニングとマネタイズで生計を立てる。マンガ好きが昂じ壁一面の本棚を作るものの、日々増え続けるコミックスによる収納限界の訪れは間近に迫っている。