錦糸町駅からスカイツリーが見えると、いつも感動します。意外に近くて。それなのにそれなのに、この漫画の表紙にはデカデカと「東京っていうのは東の端に行くほど残念になるから覚えときな」のセリフが。
総武線沿線で生まれ育った身からすると、随分ハッキリ言ってくれるじゃない、喧嘩売ってんのか!と思うのですが、確かに錦糸町は単なる通過駅でしかなく。
そんな錦糸町の夜間診療歯科を舞台に、キャバ嬢を夢見て秋田から上京してきた少女・小夏が奮闘する『錦糸町ナイトサバイブ』。ベタな笑いがクセになる漫画です。
西本小夏(20)は、高校生の時に観たドラマ『ナイトコロシアム キャバ☆ウォーズ』の主人公リナちゃんに憧れ、夜の女王になるべく、錦糸町でキャバクラの面接を受けます。ところが、どう見ても中学生にしか見えないため雇ってもらえません。しかも面接で、シャンパンやらグラスやらを派手に壊し、いきなり300万円の借金を背負うことに。返済期限は、わずか1年。仕方なく、子供のころからの知り合いであるジジイ先生が営む錦糸町の「よなか歯科」に住み込みで働くことになる小夏。
先輩歯科助手の奈緒子に色々と教えてもらう小夏ですが、実はこの奈緒子が私のツボです。久々に治療に来た患者さんに対しては、「治療途中でバックレてんじゃねーよ。まったくよ~」と言い放ち、キャバクラに行くため新調した服についてはこんな感じ。
新規の患者をどう増やしたらいいのかという打ち合わせでは、
こんな錦糸町ならではの、毒舌ピンポイント小ネタが満載です。
夜になると「ぼったくりイヤイヤ音頭」という歌が駅前で流れ(どうやら新宿駅でも聞けるらしい)、歌っている嘉門達夫は、「最近、タツオに改名したらしいよ」「今年イチどうでもいい話題」というセリフに、ほんとどうでもいいと思いながらも、クスクスが止まりません。
歯医者ならではの小ネタもあって、小夏が唾液や削りカスを吸い取るバキュームをいきなりジジイ先生のあご髭に当ててズゴーっと吸い取るとか、ライトを先生の頭にゴンゴンぶつけるとか、もう本当にしょーもない小ネタが一杯なのですが、こういうベタな感じ、嫌いじゃないです。いやむしろ、このベタな笑いが心地いい。
ほかにも歯型を採ることを「印象」ということや、印象材の作り方、歯列矯正の種類といった積極的に知りたいわけじゃないけれど、確かに気になっていた歯科情報のさじ加減もニクいです。
一方、ストーリーは、小夏が一目惚れした賢ちゃん(19)との仲も同時進行していきます。実はこの賢ちゃん、キャバクラでバイトをしている大学生なのですが、『キャバ☆ウォーズ』に出て来るタケル君にそっくり。
万事フツーで凡庸なメガネ男子賢ちゃんと、元キャバ嬢の賢ちゃんのお姉ちゃん、いかにも水商売風なキャバクラオーナーと、もう一癖も二癖もある様々なキャラが出て来て、中身もてんこ盛り。こんな人、絶対にいない、こんなこと絶対にあり得ないと思うのに、妙に親近感があり愛おしくなるのです。
今までは通過するだけの街だった錦糸町。でも次は絶対、錦糸町で降りるぞ、漫画に出て来た店も探すぞ、嘉門タツオの歌も聴きに行くぞ! と、いつの間にか、錦糸町フリークにさせられてしまう漫画でした。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp