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2018.08.28

レビュー

みんな苦手な怪作です。魔人異能バトル「ダンゲロス」熱狂的ファンの歓声!

こんなにも読者を選ぶ漫画はなかなかないでしょう。好きな人にとってはたまらなく好きに、苦手な人にとってはうーん……となる漫画だと思います。みんなに愛される名作もあれば、『ダンゲロス』シリーズのように一部の人に熱狂的に愛される作品が生まれる点は、私が漫画を好きな理由のひとつかもしれません。そこに読みたい人がいる。そこに描きたい人がいる。それが、漫画です。


■本題に入る前に、『ダンゲロス1969』をより楽しめる情報を

本作『ダンゲロス1969』の漫画レビューの前に少しだけ、より漫画が楽しめる『ダンゲロス』の誕生についてや元になっているゲームの説明をさせてください。

『ダンゲロス』とは架神恭介氏が立ち上げたインターネット上のウォー・シミュレーション・ゲームです。特殊能力を持つ「魔人」たちが通う私立希望崎学園を通称で呼ぶ名が、本作のタイトルにもなっている「ダンゲロス」です。

このゲームは10~30人ほどのプレイヤーが参加し、ふたつの陣営に分かれて戦います。自分で自分のキャラクターを作り(キャラクターの作り方などには細かいルールがありますが今回は割愛)、参加する陣営を勝利に導きます。

このゲームの世界観を元に、架神恭介氏がライトノベルを執筆。『戦闘破壊学園ダンゲロス』が第3回講談社BOX新人Powers Talentsを受賞し、小説が書籍化されました。

この小説を原作として漫画化したものが、横田卓馬先生の描く『戦闘破壊学園ダンゲロス』です。同じタイトルですが、ラノベ小説と漫画があるのはこのためです。漫画『戦闘破壊学園ダンゲロス』は2015年に全8巻で完結しました。

『戦闘破壊学園ダンゲロス』は個性豊かなキャラクターがとても多く登場する漫画です。ご紹介した通り、「参加型のゲームから始まったから」というのが、キャラ数が多い理由なのかもしれません。キャラをルールの中で自由に作れるということで、その部分が個性になっています。漫画を読みながら、キャラクターがどんどん増えていく背景を想像すると、より一層楽しく読めます。

私と『戦闘破壊学園ダンゲロス』の出会いは少し変わっています。仕事でつながりがある企業の方と漫画やゲームの話をしているとき、面白い漫画を紹介してもらおうとしたら「そういえば、僕、この漫画に登場する○○(名前を出すとご本人がバレてしまうので伏せます)というキャラのモデルなんです」と伺ったんです。それが出会いでした。そこでダンゲロスの由来やどういうゲームから始まったのかを聞くことができたので、この壮大な物語の不思議な誕生がなんとなくわかり、興味が湧きました。

キャラクターの多さに少しビックリしましたが、ベースにあるものを知って納得。そこからはかなり楽しく読めました。独特でグロテスク。ちょっとエロ、一見お下品に見える世界です。大きな声で「みんなにオススメです!」とは言いにくく、電車の中で読む場合は、少々気遣いが必要な内容です。それでも深く読んでいくと、過激なグロやエロの奥に、本質的な著者の描きたかったのであろう面白さが隠れています。SNSを使っていろいろな人の意見や感想を一緒に読みながらダンゲロスの世界を追いかけると、なお面白く、深く潜り込めます。

さて、ちょっと前振りが長くなりましたが、『ダンゲロス1969』のレビューへ。


■作品のキモは「魔人」

今回ご紹介する『ダンゲロス1969』は『戦闘破壊学園ダンゲロス』の発端となった法律「学園自治法」成立までの流れを描く過去の物語になります。ただ、完全な続編ではなく、あくまで過去風物語のようです(インタビューで「パラレルワールドです」と発表しているので、一応別世界なのでしょう)。

漫画のキモになる「魔人」の説明や世界の設定をきちんと説明してから始まるので、前作を読んでいなくても読み始めることはできます(前作を読んでいると、より楽しめるというのはあります)。もちろん、グロやエロな表現はそのままなので(むしろちょっとパワーアップしているかも)、「本家が帰ってきた!」と安心しました。

もともと小説から始まっているため、絵のないエログロの世界。小説が文字を追いかけながら読者の妄想・想像で完成していく読み物なのに対し、漫画はすべてが絵になり可視化されます。出版できるのか!? という描きにくそうなキャラが大変多いのですが、漫画家・横田卓馬先生が見事にギリギリを攻めつつ、カッコよく仕上げています。お見事です。


■キャラクターが下半身を露出させて登場!?

本作は「魔人公安」VS「魔人学生」のバトルが大きな軸。どちらにも個性が強いキャラがわしゃわしゃ出てきます。どんどん増えるので追いかけるのが大変です。忘れないために1周目はスクショを撮りつつ、紙の漫画とiPadのKindleの二刀流で読みました。



いきなり登場する魔人公安側の山下一郎はなんと、下半身が丸出し。彼の能力がすごいのです。相手の動きを粘着性のある精液で止めてしまいます。モザイク入りだったり、下半身がボディペイントだったり。おおおお! とクスクス笑ってしまいました。設定が細かい。



手に持つ銃と下半身のアレでなんと二丁拳銃。ダンゲロス流に言えば、そのルビにすべてが込められます。恐るべき早撃ち、恐るべきルビのセンスです。こういうコマを見つけると、ダンゲ節がでたな! とニヤニヤします。


見開きドーンでこのカットです。これこそ正統派ダンゲロス! ファンにはたまりません。


■登場人物たちに感じるのは「愛おしさ」

大きな流れは主人公・ユキミとクラスメートで魔人・岩波が出会うところから始まります。

岩波の能力は「バベル」といい、半径2m以内にいる人の口から出る言葉を老学者が小難しく訳したような表現に変えてしまうという。

ちょっと面倒な能力ではあるけど、誰かを傷つけたりするわけでもなく、周りの友だちとも良好な関係を築いている岩波は、魔人でありながらクラスに溶け込んで暮らしていた。

しかし、ちょっとしたユキミのイタズラにより、魔人を恐れた街の人に混乱を起こしてしまい、校内で射殺されてしまいます。

悲しみと罪悪感を胸にユキミは東大にある「プロ魔連」へ参加することへ。ここからいよいよ「魔人公安」VS「魔人学生」が始まります。

後半は学校側、公安側、一気にキャラが登場します。キャラたちの愛おしさは、ぜひ本編でお楽しみください。どのキャラも、もちろんダンゲロス臭満載です。

こうやって1冊の漫画のレビューを書いていますが、なんて説明が難しい漫画なんだろうと感じます。膨大な設定の量と、漫画のタイトルにも入る1969年という日本の歴史上では学生運動まっただ中であった時代背景。サブカル寄りの作品かと思いきや、歴史を調べながら読むと、そこに深い設定がさらに隠れているように錯覚させます。本当の答えはどこにもありませんが、読者を「この作品をもっと掘りたい」と思わせる魅力があります。

最初にも書きましたが、読む人をとことん選ぶ作品。怪作のひとつです。だからこそ、自由な漫画の歴史に必要な1冊でもあるんだろうなぁと思います。もちろん私の漫画コレクションに追加される漫画です。

レビュアー

兎村彩野 イメージ
兎村彩野

AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。

https://twitter.com/to2kaku

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