授業中の居眠りならいくらでもした。バレると死ぬほど気まずく、寝ながら書いたノートの判読不能さは絶望的だったが、教室特有のぬるくてのんきな空気に負けて寝続けた。(とくに化学。モル数と睡魔のマリアージュは強烈だった)
『佐伯さんは眠ってる』の舞台も、そういう穏やかでのんきな中学校だ。ヒロインの名前は“佐伯さん”。タイトルを背負うだけあってかなり骨太なキャラクターだ。そう、こんな具合に。
開始1ページで既にスカッと眠っている。初登場で寝顔なんだよなあ……題名に偽りなし。それに隣の席の“時宮くん”が指摘する通り、凛(りん)とした寝姿だ。背筋とかありえないくらい真っ直ぐ。起きていてもこれは難しい気がする。これにはちゃんと秘訣がある。
定規をお胸(大きくて立派!)に挟み、そこに顎(あご)をのせることにより、居眠り特有の「こっくりこっくり」の動きを封じているのだ。中学の頃なら絶対マネしてたよ! (顎が痛くならないような“工夫”を怠らないところも素敵!)
異色の強キャラ、佐伯さん。
佐伯さんはクラスのマドンナ的存在だ。学級委員で、真面目で、優しい。しかも黒髪ストレートで巨乳で美人。
見よこの男子の夢を詰め込んだような制服姿。どうなってんだよそのピタピタなブレザー、と思う。それはさておき、可愛い。
この時点でかなりパーフェクトな女の子なのだけど、冒頭でお伝えした通り居眠りに対する情熱もパーフェクトだ。目標と行動計画と実行力が綺麗にまとまっている。
佐伯さん、仕事もできそうだ……。
そんな佐伯さんの居眠り癖を知っているのは、居眠りを目撃してしまった時宮くんだけ。これは2人だけの秘密だ。で、少年少女がドキドキするようなスクールライフにおける鉄板エピソードでも、とにかく「惰眠」がテーマ。体育倉庫に2人で閉じ込められても、一緒にゴミ捨てに行っても、常に「惰眠」の話がついてまわる。
こんなにハァハァしているのに「眠い」だけだもんなあ……。この作品が男子に大人気なのも良くわかる。眠いだけなのにエロいし可愛い。
眠る佐伯さんの姿も、居眠りの素晴らしさと自分の努力を打ち明ける佐伯さんも、とにかく応援したくなる。「佐伯さん、寝てくれ」と。
「惰眠」を全力でハックする佐伯さん
しつこいようだが佐伯さんは大体毎話寝ている。が、惰眠のバリエーションが斬新かつ豊富なので飽きない。
体育だろうが、指名されがちな英語の授業だろうが、とにかく眠れるときは万全の体制で惰眠に臨むので、読んでるこちらは「ああ、また寝てるな」ではなく「今回はどうやって寝てるのかしら?」と思うわけだ。
しかも佐伯さんは惰眠の効果を最大化することも怠らない。
「カモミールのアロマ効果で安眠」は女子力高めなワードだと思うのに、佐伯さんがいうと、なんというか情熱大陸っぽさがある。この妥協のなさ。こんなに怠惰に思えない惰眠って初めて見た。
時宮くんもきっと私と同じ気持ちなのだろう。「可愛いな」よりも「さすがだな」とリスペクトし、佐伯さんの惰眠の手助けすらする。
このくだりは個人的に山場だった。時宮ナイスアシスト。
ということで、あの手この手で眠りまくる佐伯さんと、彼女を見守る時宮くんの視点で全てが進む傑作惰眠マンガだ。時宮くん全然居眠りしなくなったな……。
本作はマンガアプリ「Palcy」で連載されている。スマホでテンポよく佐伯さんの惰眠っぷりを拝めるのがとても楽しい。単行本と合わせてオススメします。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。