・王子の過去がついに明かされる! 「女子高生 × イケメン芸能人」王道少女漫画で甘い恋を疑似体験
『近キョリ恋愛』から、著者のみきもと凜さんのファンになり、現在連載中の『午前0時、キスしに来てよ』も、ワクワクしながら追いかけています。
「女子高生×イケメン芸能人」という、まさに少女漫画の王道設定。この王道設定がみきもと凜さんの手にかかると、ただの王道ではなく、しっかりとみきもとワールドへ昇華します。
1・2巻あたりから続くふたりの出会いや駆け引き、3・4・5巻で広がる漫画の中でのふたりの関係性とキャラクターの成長。とくに主人公である日奈々のかわいさや素直さは、読んでいてキュンキュンします。「素直な女の子ってかわいいなぁ」という少女漫画の醍醐味を存分に楽しめます。もちろん今作の王子である楓くんのかっこよさやハニカミっぷりも、甘系少女漫画好きにはたまらないはず。
■イケメン俳優の気になる過去が明らかにされるとき
さて今回取り上げる7巻では、主人公であるごく普通の真面目な女子高生・花澤日奈々と元Funny boneのイケメン俳優・綾瀬楓のカップルが、物語の核心部分だった楓の過去に触れます。なぜFunny boneを脱退したのか、なぜ楓は男性アイドルとして芸能界へ入ったのか、メンバーとの関係がついに楓の言葉で語られます。
過去の巻を読んでいて、ずっともやもやしていた部分だったので、7巻の冒頭から始まる楓の語りは一気に読んで没入してしまいました。圧巻です(個人的にはとてもスッキリしました)。
楓の過去の告白から、日奈々の優しい返答までの流れは、ここまでふたりの成長を追いかけてきた読者として、なんとも言えないあたたかい気持ちになれます。ふたりの間にあった小さな壁をまたひとつ壊して乗り越えた感がありました。
■つっこみは封印。少女漫画を120%楽しむなら、妄想力と没頭力を働かせて
ふたりの絆が深まる中で、楓はアイドルから脱却し、本格派俳優としての道を一直線に進みます。売れっ子としてどんなに忙しくなっても、時間を見つけては日奈々と向き合う日々。その中で、楓は日奈々の隠している大切なものに気づきます。
しばらく楓ターンが続いていた本編ですが、ここで日奈々の過去にシフトチェンジします。たしかにここまで読み進んで、日奈々の真面目すぎる・良い子過ぎる面には、なにか気になる部分はありました。物語はそのポイントへ進んでいきます。
少女漫画を読むとき、100%現実で再現されたり、起きたりすることはないだろうとわかっていても、「それはそれ」と割り切って、妄想力をフルで使い、没頭して読み切ることに楽しさがあります。あえて読書から「つっこみ」を削るという読み方でしょうか。
恋愛ものの少女漫画を読んでいるとき、学生時代の自分に戻るような気がします。大人になって社会の仕組みやルールを知ると、妄想や夢、憧れは、だんだんと「そんなわけないな」と自分の中から切り離されていきます。手放すのは簡単なことですが、あえて、自分の中にこっそり記憶や感覚を残しておき、過去を大事に生きるのも悪くないなと感じます。少女漫画を大人になっても全力で読みふけられる楽しさは、自分次第なのだろうなと思います。
■最大のライバルがついに本気に!!? 恋の嵐が吹き荒れる
7巻はふたりの過去の物語の他、日奈々の幼なじみ・彰が恋の勝負に本格参戦してきたり、マネージャー・茂ちゃんがそっとふたりをアシストしたりと、周りの関わり方が少しずつ変化してきます。
なんでも持っている売れっ子のイケメン俳優であっても、恋の前ではひとりの男性であり、嫉妬したり喜んだり悩んだり焦ったり。そんな姿に、応援したりキュンとしたり、愛おしくなったり。日奈々の分け隔てない優しさに、漫画全体に癒(いや)しが広がります。
後半はクリスマスストーリーへ続きます。日奈々と楓は日奈々の妹・すずを連れて3人で楓の家で過ごすことになります。忙しくなかなか会えない日々でも、特別な日を特別な人と過ごせるのは、漫画でも現実でもやはり嬉しいもの。しばらくシリアスな展開が続いていたので、読んでいてほっこりしました。
また、そのままの流れで、お正月のお休みに日奈々は楓の実家へ一緒に帰省することになります。自分の育った環境とは違うあたたかい家族の中で、自分の生い立ちや自分の家族との今の関係を振り返ります。
■ヒロイン目線と親目線が混じるから、少女漫画は2倍楽しめる
高校生くらいの年齢だと、自分の家庭環境は選ぶものというより、与えられるものであることが多く、望むものと現実の差が、自分の力では埋まらなかったり、子どもとして親に気を使ってしまう部分も多々あります。
大人からは些細なことでも、子どもの世界の広さでは大きな問題だったり、自分の気持ちを伝えるにも技術不足だったり。親子のコミュニケーションは環境によって大きく違い、他の環境に触れる機会は少ないので、違いを知ると、少しだけ不安定な気持ちになることがあります。
日奈々の場合、両親との間に上手くいかないコミュニケーションの溝があり、本当の自分をさらけ出せないもどかしさを感じます。大人になって読む若者の漫画は、自分が学生時代に感じていた本音と、主人公の親の立場側から想像してしまう部分とが混ざるので、「言っちゃえばいいのにな」という応援と、「言いにくかったよなぁ」という思い出が交錯します。そこも大人になってから少女漫画を読む面白さかもしれません。
加速を増してきたふたりの関係と展開に、ますます目が離せなくなってきました。日奈々と楓の恋に行方も、家族の関係も、楓の芸能活動も。ふたりには幸せになってほしい。読者として応援中です。
レビュアー
AYANO USAMURA Illustrator / Art Director 1980年東京生まれ、北海道育ち。高校在学中にプロのイラストレーターとして活動を開始、17歳でフリーランスになる。万年筆で絵を描くのが得意。本が好き。