知的好奇心を満たし、スポーツ漫画のような躍動感に興奮を覚え、ときめく恋の話に心潤される。そんな贅沢三昧な国民的漫画、『ちはやふる』。
『ちはやふる』の物語は、千早たちが小学6年生の時に始まった。
主人公の綾瀬千早と、千早に密かに思いをよせる優等生の真島太一は、福井から転校してきた綿谷新(わたやあらた)の影響で、かるたと衝撃的な出会いを果たす。新の「競技かるたで日本一になる」という夢に感化され、千早と太一もかるたの魅力にのめりこんでいく。
だが小学校卒業を機に新は東京を離れ福井に戻ることが決まり、3人は「かるたを続けてさえいればいつかまた逢える」と再会を約束するのだった。
その後、物語は高校1年へと飛ぶ。
中学は別々だった千早と太一は瑞沢高校で一緒になり、2人はかるた部の設立に奮闘する。
一方で音信不通になっていた新が、祖父の死を機にかるたから離れていたことを知る……。
中学生時代の空白の3年間に一体何があったのか? 千早と太一はどんな思春期を過ごして成長したのか、そして新は福井で具体的に何を見て何を思い、かるたをやめてしまったのか?
待望の中学生編がコミックになりました!
原案は『ちはやふる』本編の末次由紀先生、原作は『ちはやふる中学生編小説版』の時海結以先生、そして漫画は新鋭の遠田おと先生です!
中学生になった千早は、「かるた友達をたくさん作るんだ!」と意気揚々。しかし同年代の女子たちにかるたの魅力を熱く語れば語るほど、ドン引きされて、気づけばクラスで孤立していた……。
でも太一だけは永遠に味方! 共に強くなり、新に会う約束のためにずっと一緒にかるたをできると思っていたのに。太一まで「おれ今日でかるたやめる」と去ってしまった。
かるたのことになると暴走して盲目になる千早。同年代の女の子たちの話題や趣味に合わせる術を知らない。
勉強も運度もかるたもやること全てに手を抜かず、全部一番にならないと気がすまないプライドの高さをコントロールできない太一。
どちらも思春期ならではの純粋さや不器用さから来る葛藤だ。子どもでも大人でもない。甘酸っぱいようなほろ苦いような「中学生」の頃を思い出し、つい本を持つ手に力が入ってしまう。
でも2人とも、試行錯誤、紆余曲折しながら、成長して自分の考えを確立していく。
千早は、初めてできた親友が千早を「ひとりじゃない場所」に繋いでくれたように、自分が太一と新を繋がなければいけないと確信する。
太一は、1位になりたい理由が「母に言われているから」ではなく「自分が嬉しいから」、戦うべき相手は自分自身だと悟る。
2人の成長が親のように嬉しくて、自分のことのようにこそばゆい。葛藤・苦しみと輝きの二面性を持つこの時代がとても愛おしく感じられる。
ところで、あれ、新は……?
1巻の最後に少し出るだけで、新の本格的な話は2巻からとのこと。
待ち遠しい……!!
新がかるたをやめてしまうに至った経緯が、3人の中で最も気になるところです。
私は新の大ファン。というかそれすら超えて、親戚みたいな感覚なのです。
なぜかと言うと…………なんと夫が福井県出身で、競技かるた経験者なのです……! 毎年お義兄さんの住むあわら市(新の出身地)に帰省するという福井の身近さ。
福井県民の純朴さ、あたたかさ、勤勉さを身を持って知っていて、新は親戚の子みたいな感覚にはなるし、漫画の福井弁もネイティブのイントネーションで脳内再生されるってもんです。
夫が「福井出身で競技かるた経験者で小学生の時に県で1位になった人」なら、生の声を聞かない理由がありません!
家庭内でインタビューしてみました。(笑)
○福井ではかるたをクラブ活動として、それとも習い事としてやるの? 何歳からやるの?
──地域によってばらばらだと思う。村や市で子ども会の活動としてやるとか、千早みたいに白波会のような会に所属するとか、様々。
うちの村(坂井市=旧坂井郡坂井町)では、こども会として、かるたと和太鼓は全員参加だった。義務ではないけれどやるのが当たり前だった。でも他の小学校だと経験者は1割くらいだったかな。僕は小学校2~3年から始めた。(※40年も前の話です)
○カルタの楽しさを教えて
──楽しいより苦しい。ただ、狙い通り取れた時や、完璧なタイミングで取れた時の快感はものすごい。戦略性、読む人の発音の特徴を聞き分ける、相手の癖を見極めてその場で戦法を変えることとか、とにかく色んなことを考えなければいけない。
試合中にそれまで出た札とまだ出てない札を全部覚えていて、そうしないと二字決まりで取れるものを四字まで待たないと取れなくなるなど、頭が良いほうが有利だと思う。
○福井は「社長輩出率ナンバーワン」「共働き世帯ナンバーワン」「小中学生体力テストや学力テストトップクラス」「幸福度ランキング全国1位」など、色々な日本一を誇っているけれど、それらと競技かるた文化に相関はあると思う?
──関係あると思う。
まず体力テストと学力テストについては、体力と知力の基礎力はカルタ上達に必須。狙った一枚をはねる反射神経や、脳と体が一致してのスピード感が必要。
社長もかるたも「忍耐力」を問われる点が一致する。福井県民は忍耐強い。
幸福度と共働きに関しては、女性が働きながらも子どもをしっかり保育・教育できる環境があり、幼い頃から体力も学力も家族単位・地域ぐるみでしっかり教育でき、それが幸福度にもかるたの強さにも繋がっていると思う。祖父母との同居が様々な良い影響を与えているのは間違いない。
北陸本線芦原温泉駅のホーム。2016年5月撮影
えちぜん鉄道三国芦原線。2017年5月撮影
福井は素敵なところです。『ちはやふる』を片手に(本編は37巻まであるので片手じゃなくてスーツケースか)、新を巡る福井旅はいかがでしょうか。私もいつかそんな旅記事を書いてみたいものです。
完全に福井の宣伝になってしまいましたが(笑)、『ちはやふる』の中学生編、瑞々しさたっぷりで本当にオススメです!
3月17日からは映画「ちはやふる─結び─」が公開されます。映画版の試合のシーンは一切手抜きなく、リアリティを追求しているのが魅力です。こちらも必見です!
◇映画「ちはやふる─結び─」公式サイトはこちら⇒http://chihayafuru-movie.com/#/boards/musubi
レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。