■承認欲求が高まりすぎたがゆえの、罠にはまる女性たちのリアル
ドキドキした。こうなる可能性があったかもしれない過去の自分がそこにいたから。読みながら、そして読み終えてからも動悸が止まらなかった。
この漫画を手にして同じような反応になる女性は、少なくない予感がする。ごく普通の女性たちが、この作品の主人公たちのような状況になり得る。どっぷり浸からなくても、片足突っ込んだり、覗(のぞ)き見たりしたことがあるのではないだろうか。
だってここに描かれているのは、万人が持つ「承認欲求」の姿だから。
家族に、友達に、彼氏に、夫に、世の中に、自分を認めて欲しい。
「あなたが必要」「あなたはすごい」「あなたは素敵」と言ってもらいたい。
SNSのフォロワーを増やしたい、いいねをたくさんもらいたい。そのためにわざわざ見栄えの良い写真を撮りにどこへでも行く。行列のできるお店にも並ぶ。反応が気になって1日中SNSを見張っている。
きっとまだ知らぬ王子様が、私の魅力をわかってくれるはず。ありのままの私の姿を、性格を、才能を、みつけて愛してくれるはず。
あなたはどうですか? もしあなたは違ったとしても、周りにそんな人は五万といるでしょう? 私もそうだ。開き直ろう。
その「度を越した姿」というのが、この作品に出てくる女性たち。
1人はパパ活、1人は婚活という道を暴走してしまった……。
地味で普通なアラサー女子が「認めてもらいたい」という欲によって甘い罠にはまっていくリアルがここにある。
■おいしいだけでは終わらない「パパ活」の闇
後輩のエリカから「パパ活」を紹介してもらったマイ。オジサマと高級料理を一緒に食べておしゃべりするだけでお金がもらえる。しかも体の関係は一切なし!
そんなおいしすぎるパパ活。
食事をしただけで1万円を貰えた……!
うそでしょ? こんなに楽にお金が手に入るなんて。
でもやっぱりたまに体目的のオジサンもいて、逃げるように帰ってくることも。
そんなことに疲れて、もうパパ活はこれで終わりにしようと思った時。
運命的なパパとの出会いが……。
静かで優しそうなパパの雰囲気に心を許し、つい仕事の悩みを打ち明けたマイ。
すると同年代の男性にはない懐の深さと優しさで受け止めてくれ、経験から導かれた的確なアドバイスをくれた。
その上、5万円ものお小遣いをポンとくれた……!
「一体このパパ、どういう人なんだろう……」
こんなに気になるパパは初めてだった。どんどん惹 (ひ)かれていくマイ。
そしてある日、20万円もする高級な靴をプレゼントしてくれたパパ。
日頃から靴を丁寧に扱うマイのことを見ていてくれた。
「私のそんなところまで見てくれてたんだ……」
彼氏だってそんなところ見てくれない、評価してくれない。
初めて高く評価され認められたことに、完全に舞い上がってしまったマイ。
そうして油断した時、事件は起きた。
食事の2軒目に誘われて車に乗ったら、2時間も走ったまま。
私はどこに連れていかれるの……? どうなってしまうの……?
マイはこの罠から抜け出せることができるのでしょうか。
後半は少し非現実的で盛った感じの話が続きますが、ぐいぐい引き込まれてしまいます。
お小遣いをくれるパパの心の闇を、歪みを、考えたことはありますか?
生きた人間の持つ闇は、幽霊やホラー映画よりも怖いですよ……。1人の一生をめちゃくちゃにされるくらい……。
■抜け出すことのできない「婚活沼」
続いての話は婚活。
22歳の時から6年間つきあっていた彼氏に振られたサクラ。このまま彼と結婚して、子どもを産んで、マイホームを買って……という夢が、30歳を前に脆(もろ)くも崩れた。
そして親友に誘われた婚活パーティーに参加するようになった。
「自然な出会いを待っているより近道かもしれない!」
そして回を重ねるにつれ、データや見た目のみで男性を捌(さば)いていくようになる。
カップルが成立した時はこの上ない快感!
私選ばれたんだ! また結婚への新たなレールが延びていく。
でもその相手が、街で違う女性と歩いているのを見てしまった……。
彼は婚活パーティーでナンバーワンになり、選ばれることが目的と化した、婚活中毒者だったのだ。
婚活なんて虚構……。
傷ついたサクラは婚活をやめることにした。
……はずなのに!!
パーティーに出ていた時間になると苦しくなる!
勝手に体がパーティーに向かう。
また今日もろくな人はいないことはわかっている。
だましだまされということはわかっている。
すべてが無駄なことも。
行ったらしんどい、でも行かないともっとしんどい。
でもハイスペック男性から選ばれ、その日のナンバーワンになることで、「婚活市場において求められる水準をクリアできている自分」を確かめることで自分を保てる。自分の価値を見いだせる。
ハイステータス男性に選ばれる努力は惜しまない。
連戦連勝、男性を選び放題。
婚活市場における自分のステータスの上昇を感じ、自信に満ち溢れていた。
そう、もうサクラは婚活沼にはまって抜けられなくなっていたのだ……。
そんな、婚活を通してしか自分の価値を見いだせなくなったサクラを、地獄のような出来事が襲う。
パーティーにて複数の男性を股にかけている様子がテレビで放映され、更にSNSで顔を拡散されてしまったのだ……。
世の中から敵意を向けられたサクラの未来はどうなる?
マイもサクラも根が悪いわけではない。
ごく普通の女の子が、ほんの少し、寂しかっただけ。
ほんの少し、現実を見ることから目を背けてしまっただけ。
きっかけは些細なこと。
誰にでも起こりうること。
SNSのいいねの数を気にしてしまう、流れるようにいいねを押しまくってしまう全ての「普通の女性」に読んでほしいです。胸の端っこを針でつつかれるような痛みを感じてしまうかも……?
レビュアー
一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。