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2018.06.21

特集

第42回講談社漫画賞発表!BEASTARS/フラジャイル/透明なゆりかご/傘寿まりこ

講談社では、日本の漫画の質的向上をはかり、その発展に寄与するため、昭和52年から「講談社漫画賞」を設けて、毎年最も優れた作品を発表した漫画作家を顕彰いたしております。本年度の選考委員会は5月10日に開かれ、「第42回講談社漫画賞」を決定いたしました。講談社漫画賞のシンボルとして山形博導氏制作のブロンズ像「MEMORY」が受賞者に贈呈されます。

選評

赤松 健

今回の選考会では一般部門が最もモメまして、何度投票や議論を重ねてもスッキリ決まらず、とうとう『フラジャイル』と『傘寿まり子』の同時受賞となりました。全く異なるジャンルですので、そこは一つに決められないですよね。他には『とんがり帽子のアトリエ』の画力&コマ構成力も高評価。『ハレ婚。』も不思議な中毒性がある。
ジャンル分けの問題は少女部門でもありまして、今回『透明なゆりかご』が最高得点で即決定となりましたが、「果たしてこれは少女部門なのか?」という疑問は各委員が持っていたようです。しかし今後の少女部門の広がりを見据えつつ、また「少女にこそ読んでほしい」という願いもあって、そのまま受賞となりました。…漫画文化の発展と共に、「少年・少女・一般」の3種類のみでの区分けは、現実とそぐわなくなってきたように感じます。
少年部門は、既に様々な漫画賞を総なめにしている『BEASTARS』。まさに2018年を代表する作品の一つと言えるでしょう。ザラついた描線が醸し出す動物のエロスがたまらない。『アルスラーン戦記』もさすがの面白さで、個人的には最も熱中している作品です。

うえやまとち

今回も、すばらしい作品に出会え、実に充実した読書タイムを楽しみましたバイ!
まず少年部門では『BEASTARS』に驚かされました。最初少し読みづらくも感じたのですが、読み始めると圧倒的な表現力にグイグイ引き込まれました。これは少年誌でいいのか? もう一種の哲学書ではないかとさえ感じました。『はたらく細胞』も良かった。ものすごいバトル学習マンガ‼ それぞれ細胞のキャラの描き方とか、憎いほどうまい。人が生きるということは、それだけでもこんなにバトルを背負っているのかと、これもまた哲学を感じました。
少女部門も豊作でした。『これはきっと恋じゃない』が、エンターテイメントとして楽しめましたが、なんといっても『透明なゆりかご』にうたれました。一話ごと泣きながら読みました。これは少女漫画でいいのか? 男も読まんといかんよ‼ と思いました。
一般部門は悩みました。『傘寿まり子』『フラジャイル』、どちらもすばらしく、悩みに悩んでどちらも1位として推しました。2作品とも受賞となり、本当に良かった〜〜っですバイ‼

大暮維人

受賞者の皆様、おめでとうございます。
今回は候補作の方向性がいずれも違っていて、いつも以上に悩みました。
どの候補作もそれぞれの魅力と力強さに溢れ、どれが受賞してもおかしくはなかった、むしろ、許されるならば全ての候補作に賞を取ってもらいたかった、そんな選考会でした。
少年部門では話題沸騰中の『BEASTARS』が一際異彩を放ち、各賞を総なめにするその勢いのまま、実力では抜きん出た存在の『アルスラーン戦記』を抑えての受賞。
少女部門は、少女漫画として分類して良いのか、そもそも賞を部門ごとに分ける意味はあるのか、と賞の有り様にまで踏み込んだ意見も出ることとなった『透明なゆりかご』。
一般部門は完成度で随一の『フラジャイル』、勇気をあたえてくれる『傘寿まり子』が伯仲し、同時受賞となりました。
受賞作全てがそれぞれの分野に収まりきれない独特の作風で、ボーダーレス化と細分化が加速している漫画界の状況をストレートに反映する結果となり、深く考えさせられました。

加瀬あつし

少年部門は審査員の圧倒的支持を受けた『BEASTARS』が受賞。個人的には、見た目とギャップのある、個性派ヒロインの『虚構推理』が読んでて楽しかった。そして、魅力的なキャラに囲まれた王子の人望がひたすらうらやましい、『アルスラーン戦記』はさすがの一言。『はたらく細胞』も斬新で記憶に残りました。
少女部門は個人的には『恋わずらいのエリー』が笑えてストライクだったが、産婦人科物の『透明なゆりかご』を少女部門として扱うかどうかが焦点となりました。ネットなど出身の多ジャンルの作家作品が溢れる今日、今後、少年・少女・一般のエントリーの垣根があいまいで線引きしづらく審査も難しくなっていくことを感じました。
一般部門は深夜に寝不足の涙腺を決壊させられた『フラジャイル』と、主人公まり子の生き方から背中を押され、元気をもらえる『傘寿まり子』の、涙と元気の両作品の受賞となりました。 皆さまおめでとうございます。

森高夕次

少年部門は『BEASTARS』板垣氏の才能にやられた。このバタ臭い絵はどこで体得したのだろうか? 世界観とぴったりマッチして芸術的とさえ思えた。無国籍でユニセックス。一般部門や、もっと言えば少女部門にノミネートされていても行けたのではないか? と思わされたほど奥行きがあると思った。
奥行きと言えば少女部門の『透明なゆりかご』の沖田氏は、もっと気楽に読めるテイストも読んだことがあったが、すごいギャップのある作品を上梓したものだ。ここまで作家的な奥行きがある人とは思わなかった。氏は真の意味の"作家"だと思う。
作家と言えば一般部門の『傘寿まり子』は主人公が小説家、という設定がミソだったように思う。この設定は"救い"であって主人公を追い込むことには貢献しない。このほかにも"救いの設定"がいっぱいあるのだが、この設定が高齢化問題から発展してストーリーを次のテーマへと広げていく。この作品も絵柄とのギャップ、奥行きに心が震わされた。

小林深雪

少年部門の『BEASTARS』は、擬人化された動物たちの学園生活を描いた異色の作品。種の違いを超え、対等な関係を結ぶ一見平和な世界。そこに野性や本能というタブーが見え隠れし、不穏を予感させハラハラしました。
少女部門『透明なゆりかご』は、看護師見習いの少女の目を通して、中絶や死産といった産婦人科の陰の部分を描くショッキングな作品。重いテーマですが、頭身の低いデフォルメした絵柄のおかげで読みやすかったです。
一般部門の『傘寿まり子』には、驚かされました。なんと主人公が八十代の女性! 超高齢化社会のこれからの生き方、働き方など、個人的にもとても続きが気になる作品です。『フラジャイル』は、病気の原因過程を診断する病理医が主人公。巻が進むごとに各キャラクターが立ってきて、特に「小児ガン」編では涙が。どちらも甲乙つけがたい作品ということで、議論を重ねた結果、二作受賞に!
受賞者の皆様、おめでとうございます。

大和和紀

久し振りに選考委員を務めさせていただいたが、漫画界の進展に驚かされた。ことに充実感があった少年部門ではレベルの高い諸作を読者として楽しませていただいた。『アルスラーン戦記』の抜群の画力、構成演出力は最高! と思ったが、『BEASTARS』の動物の擬人化という着眼点、また主人公達が成長の過程にとまどい、あがきつつ進む姿が現代を生きる中高生にリアルに重なり、心を魅かれ一票を投じた。
少女部門は手堅くはあるが、いずれも一線の3作品を抑え、敢えて少女部門にエントリーした『透明なゆりかご』の今の世の悲しみ、重さをシンプルな絵柄で描いた視点に、全委員の評価が一致しての受賞となった。
一般部門も読みごたえ充分の秀作が揃い、迷ったが、『フラジャイル』の筆力、感動の大きさと、『傘寿まり子』の80歳の女性を主人公に据えたユニークさ、重いテーマを明るく愛らしいタッチで読者を力づける作風が双方譲らず両作の受賞となった。受賞作、候補作のすべてに心から拍手を贈ります。

受賞のことば

少年部門

BEASTARS

著:板垣巴留 【週刊少年チャンピオン(秋田書店)/所載】

BEASTARS

板垣巴留

今年は想像以上に激動の一年となりつつありますが…、その中でもこの講談社漫画賞の受賞は衝撃の展開です。講談社さんから見れば他社で描いている私にも温かい目を向けてもらえたことに、感謝と驚きが綯い交ぜになっているのだと思います。
デビューして2年、状況の変化が目まぐるしく正直心が追いついていませんが、とにかく漫画家は漫画を描いてさえいれば自分を保っていられるのが救いです。その上、この度は日本の誰もが知る出版社を冠した賞を頂き、「漫画という業界は同志で作られていて、誰もひとりぼっちではないのだ」という勇気まで頂きました。本当にありがとうございます。
気を引き締め、最後までビースターズの世界と全力で向き合い、レゴシ(主人公のオオカミです)と喧嘩しながらも二人三脚で頑張ります!

■試し読みする(秋田書店公式サイトへ)
http://arc.akitashoten.co.jp/comics/beastars/1

■詳細を見る(秋田書店公式サイトへ)
http://www.akitashoten.co.jp/comics/4253227546

一般部門

フラジャイル

原作:草水 敏/漫画:恵 三朗  【アフタヌーン/所載】

フラジャイル

原作:草水 敏

大きな賞をいただき驚いています。
かつて、ある編集者がこう言ったのを聞きました。
「漫画が面白ければ漫画家の功績、つまらなければ原作の責任」
僕が毎回ほれぼれしている恵さんの漫画に、読者や審査員の諸先生方が太鼓判を押してくださったことをとてもうれしく思います(つまり僕の責任問題は発生しない!)。
初めて物語らしきものを書いたのは19歳でした。思慮深い善人たちが善行を積む話で、書き上げてから「中国の故事かよ……」と自分に突っ込みました。
あれからもう少し経験を積んで、人間が画一的でも単純でもないことを知りました。世の中には実に様々なタイプの人間がいて、それぞれが違う矜持と誠実さに従って日々を戦っているように思います。 僕の人間観を面白がってくれる漫画家とタッグが組めたのは幸福なことでした(編集者も!)。
最後になりましたが、この漫画に関わってくださったみなさんに感謝します。
応援してくださる読者のみなさん。取材先の先生や技師さん。患者さん、製薬会社のみなさん。テレビドラマのスタッフ・出演者のかた。監修の先生。挑戦の機会を与えてくださったアフタヌーン編集部と担当編集者氏&女史。そして恵さん。
ありがとうございました。

漫画:恵 三朗

この度は歴史ある光栄な賞をいただきありがとうございます。いつも応援して下さる読者の皆様、仕事としてこの作品に関わってくださっている皆様へ、熱く厚く感謝申し上げます。
漫画は、嬉しい面白い感動を届けられる私の大好きなエンタメの形態です。
では、具合の良くない方を描く漫画とは。体調が優れないというのは、面白くない素敵ではない綺麗なことでも、ましてや感動的なことでも一切ありません。
優れない体調はエンターテイメントとの相性がよくないし、よいと思ってはいけないのです。
では、病理医を描く漫画とは。患者さんに会うことはほとんどありません。ですが患者さんの身体の中の本人も誰も見たことがないミクロの世界を見通して患者さんの病を解き明かすお仕事ごと。診断を受けた患者さんは病理医のことを知らないかもしれません。病理医は気にもせず、次の診断を始めます。これ、渋ぶくてカッコよくて素敵ですね。そんなお仕事を読んで知って覗いてこっそり応援するのは楽しいですね。
フラジャイルはアンバランスな漫画です。このバランスで正しいのか本当に面白いのか、面白くて正しければそれでいいのかもわからんのです。
今回、フラジャイル面白いぞ! というお墨付きを沢山の先生からいただけました。我々は四年もずっと不思議な体勢で片足立ちをしているのですが、この体勢で! 良いらしいです!
草水さんよかったねぇ。ありがとうねぇ。

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少女部門

透明なゆりかご

著:沖田×華 【ハツキス/所載】

透明なゆりかご

沖田×華

全てが予想外の出来事で驚きでいっぱいです!
『透明なゆりかご』第1話のネームは別の作品のネタに困っていた時にふと思い浮かび、一晩で描き上げたエピソードでした。高校時代に産婦人科医院で体験したことは強く印象に残っており、いつか漫画にしたいと思っていましたが、「出産と中絶」というデリケートな題材ゆえ、厳しい批判も受けるのではないかと思っていました。
しかし連載が進むにつれ、好意的な反響がどんどん大きくなり、私の想像をはるかに超える共感を得ることができました。しかもTVドラマ化まで決定し、驚きの中にいるまま今回の講談社漫画賞まで受賞することができました。本当に身の引き締まる思いです。産婦人科医院で起こる陰の部分「望まない妊娠、出産」は、身近な出来事でありながら、その「見えない命」に目を向ける人は、当事者以外ほとんどいません。この連載が続く限り私はそれを見つめ続け「命とは何か」考え続けていこうと思っております。
この作品を大きくしていただいた読者の皆様、担当さん、「Kiss」編集部の皆様、全ての人達に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

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一般部門

傘寿まり子

著:おざわゆき 【BE・LOVE/所載】

傘寿まり子

おざわ ゆき

この度は大変素晴らしい賞に選出いただき、本当にありがとうございます。漫画家として目標だったので心の底から嬉しいです。これも尽力くださった講談社の編集の方々、審査員の方々、デザイナーさん、アシスタントさん、私の家族、皆さんのおかげです。
『傘寿まり子』は80歳のおばあちゃんのお話でこの設定を自分のものにするのに最初は随分苦しみました。でも今では「まり子は私で、私はまり子」と言っていいほど、愛着のある存在になってくれています。
小学生の時漫画家を夢見て、2度デビューしながら挫折、再びプロになるのをあきらめた時期もありました。でもここ10年くらいから、私の作品を読んでくださる方が少しずつ増えて、1歩1歩「これが明日に繋がる道なのだ」と信じて積み上げて、そしてついに今日、この壇上に上がる事が出来ました。ここからの眺めを、あの時の私に教えてあげたい。諦める事は無いよ、あなたは執念深いから、小さな可能性の糸を編んで大きなロープにして登っていくんだよ、と。
これからも「読む楽しさ」を追求していきたいです。本当にありがとうございました。

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