一般家庭にカラーテレビが普及した1970年代、ビジュアルでも楽しませてくれるアイドルたちの時代が到来しました。森昌子、桜田淳子、山口百恵の“花の中三トリオ”やキャンディーズが活躍した時期です。「ちびまる子ちゃん」の時代と言えばわかりやすいでしょうか。みんながテレビの前のスターに夢中になり、誰でもヒット曲を口ずさむことができていました。
本作は、17歳の小鳥遊林太郎が“白鳥かける”としてアイドルスターを目指す物語です。裕福な家庭で育ちながらも、義母からの虐待を受けたことにより、家を飛び出した林太郎。持ち金も底をつき、ホームレス生活をしていたところを芸能事務所の女社長にスカウトされます。
特に抵抗することもなく、フラフラとついていった林太郎。アイドルとしてのデビューに乗っかったのは、生活苦以外にも理由がありました。離れ離れになった初恋の相手・マチ子を見つけるためです。芸能界が大好きで、テレビで音楽番組をチェックしていたマチ子。住所も連絡先もわからなくなってしまった彼女と再会するには、自分自身が有名になって、全国に顔を売るしかなかった。SNSもない時代、恋愛もハードモードですね。
色白で端正な顔立ちと長い手足から、キャッチフレーズは「陽だまりの白いインコ」。歌もダンスも未経験、ど素人の林太郎ですが、事務所の猛プッシュにより、TV番組やアイドル雑誌などに順調に露出を重ねていきます。
新人賞を総なめにしたライバル・黒崎るいにも注目です。なんとなくアイドルを目指すことになった林太郎とは対照的に、プロ意識が高く、キャラクターまでしっかりと作り込んで全うしています。まだ1巻では彼の生い立ちは明らかになっていないのですが、ピアノを弾く林太郎に対して「ピアノ弾けるなんてあいつ、絶対に金持ちにちがいない……ムカつく!!」と怒りをあらわにするところを見るに、家族のために稼ぐ手段のひとつとしてアイドルデビューしたのでは? と感じさせられます。
現代のアイドルは、インターネットですぐ生い立ちや遡行が掘り起こされてしまいます。デビュー前から芸能人として生きられるかどうかがある程度決まってしまうという世知辛さです。インターネット以前のアイドルだからこそ、林太郎たちも夢を目指せたのかもしれませんね。
全編にわたり、シリアスなモードと、ギャグ要素が高速ドリブンしているのも本作の面白さです。先輩アイドルとの喧嘩で舞台セットをド派手に壊しちゃったり、しょうもない下ネタが挟まれていたり……。話の展開も早いので、何回か反復して読みたくなります。
さらに本作は、この時代に大流行した「幸福切符キーホルダー」が出てきたり、細かい部分も楽しむことができます。各話のサブタイトルが、この時代にヒットした歌謡曲になっているのも注目ポイントです。
・1話「愛は傷つきやすく」ヒデとロザンナ(1970年)
・2話「危険なふたり」沢田研二(1973年)
・3話「S・O・S」ピンク・レディー(1976年)
・4話「逢わずに愛して」内山田洋とクール・ファイブ(1969年)
・5話「きりきり舞い」山本リンダ(1973年)
作品内に出てくる楽曲も、Apple MusicやSpotifyなどの音楽配信サービスで聴けるものばかりです。林太郎はマチ子とまた話すことができるのか? 黒崎るいの生い立ちは? 等、2巻以降の展開を楽しみにしつつ、昔の歌謡曲を聴きながら、のんびり読見返してみるのもおすすめです。
レビュアー
OL/小沢あや ライター。ウートピ連載「女子会やめた。」「アイドル女塾」のほか、キャリア・ライフスタイル系のメディアを中心に執筆中。