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2018.05.06

レビュー

無愛想だけど、意外な素顔に萌えラッシュ。もう、こっち見てよ、日高!

「叶(かな)うなら まぶしいくらいの素敵な恋を」というキラキラした言葉から始まる1ページ目の、そのあまりの直球さに「すでにまぶしい」と少しひるみ、やがて「願いってやっぱり大切よね……!」と納得しながら読んでしまった。そして無性に西野カナが聴きたくなった。今までちゃんと聴いたことがなかったけれど、聴くなら今だ、と思ったのだ。とても胸にしみた。

願いって、尊いですよ、ほんと。

主人公の“すず”ちゃんは合唱部の高校生1年生。素敵な恋はしたいけれど好きな人や彼氏はおらず、誰かとつきあった経験もない。

そして、冒頭の「まぶしいくらいの素敵な恋」というフレーズが彼女の日々のあちこちで祈りのように浮かぶ。……いい。

何がいいって、「星野源みたいな顔が好き」や「サッカー部の人がいい」などの具体的な願望が一切不明なところだ。ふわふわとした願い事の、なんと可憐で真っ直ぐなことよ。仕事に例えると「素敵な恋」はA4用紙1枚に大きな文字でコンセプトだけがズバーンと書かれただけの意思強めな企画書のようなものだ。「仕様の落とし込みは後でやります、とにかく大きなコンセプトをぶち上げて、キックオフやるぞ!」みたいな恋の黎明期らしい繊細な熱量と勢いを感じる。

ふんわりと恋に憧れるすずちゃんは、中学時代に暴力事件を起こしたという噂つきの無愛想なクラスメイト“日高”と教室で偶然ぶつかってしまう。

キタ!! 「偶然ぶつかる」!!


が、この段階では、すずちゃんには「怖っ」という印象しか残らない。「暴力事件を起こして停学」というのは高校生にとって前科(結構な重罪)に近い重みがあるだろう。要注意人物として避けてしまう。


とはいえ、この日を境に、すずちゃんの目はどんどん日高をとらえ始め……怒涛の胸キュンの嵐が始まる。

以下、萌え日高。

誰もいない音楽室でピアノをポロンとさわる日高(ここでもうノックアウトだと思う)、コピー機を颯爽(さっそう)と操作する日高、猫を全力で助ける日高、勉強(しかも数学)ができる日高、チャラい先輩にからまれたすずちゃんを助ける日高、……えっ、なんだか日高って最高にかっこよくない!? 無愛想男子・日高の意外な素顔のラッシュがすずちゃんの心に畳み掛けて、日高は「怖いヤツ」から「不器用だけどかっこいいヤツ」にクラスチェンジを果たす。


「意外性にやられる」のに加え、校内ですこぶる評判の悪い日高ゆえに「こんな姿を知っているのは私だけ!」という気持ちも作用して、すずちゃんは順調に日高に萌え続け、とうとう日高にも自分を見てもらいたいと思うわけです。

「こっち見てよ」と。恋愛成立。

……このコミックのような出来事のあれこれを、たとえば男友達に話せば「わけがわからない」とか「それで?」と言われそうだ。ティーン向けの恋愛映画のトレーラーがどれも同じように見えてしまうのも、そういう「それで?」が作用している気がする。

でも「素敵な恋がしたい」から始まって、ふわっと恋の世界につつまれ、頭の中でずっと西野カナのかわいい歌がグルグルと流れているような、そういうときの当事者ってむちゃくちゃ忙しい。日々、マジ嵐。ほんの些細なことでも本人にとっては大問題になる。

たとえば、自分だけが知っていると思っていた日高のことを、自分よりもたくさん知っていそうな「特別な人」の存在に動揺したり……。

たくさんの切なさと胸キュンの波に揉まれ、すずちゃんの顔がどんどん可愛くなっていくところも見どころだ。冒頭では見なかった切ない表情などとても綺麗だ。







なんでそんな恋ができたかって、やっぱり「まぶしいくらいの素敵な恋がしたい」と願ったからなのだ。無愛想で怖い日高が特別な存在になり得たのは、先入観を捨て、日高の素敵なところを真っ直ぐ見ることができたからだ。具体性なんて後からついてくるのだから、まずは、ふわっと願う! これ大事!

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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