歴史物漫画の定番ネタ「新撰組」になさそうでなかった新しいテーマの作品がやってきました! それが『だんだらごはん』です!
貧乏道場・試衛館に集う沖田総司と斎藤一。何かと悩みの多い斎藤一は、天真爛漫な性格の沖田総司がどこか苦手……。
食の好みも性格も正反対の2人ですが、沖田はどこにいっても斎藤をみつけだし絡んできます。そんな2人の青春ドラマを「江戸ごはん」が絶妙な距離感でつないでいきます。
そんな2人のはじめての共同作業が、ある料理でした。
日本最古の卵料理「玉子ふわふわ」
「玉子ふわふわ」は、だし汁をしっかりと泡立てた卵をとじたもの。静岡のご当地グルメとして今も楽しむことが出来ます。日本最古の卵料理としても有名。
今風に言うならば「卵の和風温製エスプーマ」といったところでしょうか。
スフレ状のあっさりとした出汁味のこの料理を、2人は心の傷から体調を崩した近藤勇への差し入れとして一緒に調理します。
「えっ? 剣士が料理?」と驚く人もいるかもしれません。
実は、江戸時代はまだ「男の嗜(たしな)み」として、料理を男性がすることがむしろ当たり前だったのです。
名のある武将や将軍で料理が得意な人も数多く存在します。
しかも江戸時代は「万宝料理秘密箱 卵百珍」をはじめ、料理本が大ブームでした。
「卵百珍」はそんな料理本の1冊。その名の通り、100を超える卵料理のレシピ本で、最近では「クックパッド」で再現レシピが話題になっていました。
その中の1品「玉子ふわふわ」は近藤勇の大好物として知られているだけではなく、『東海道中膝栗毛』でも将軍家のもてなし料理として紹介されています。
本作によると、当時は生卵1つが20文、現在の価値に換算すると400円。その卵を3つも使った料理ですから、ちょっとしたごちそうです。
がさつな沖田と斎藤の共同作業の結果は……。
「おいしい……!」
はじめて意見があったことに斎藤一は照れ隠しでごまかしますが、これをきっかけに2人の心は少し近づいたのかもしれません。そして、歴史の荒波に共に一歩踏み出すことになります。
猛者の剣と無敵の剣を料理が彩る
この『だんだらごはん』の魅力は、新撰組を代表する2人の剣豪の青春ドラマを彩る、「江戸の文化」です。「料理」を中心に綿密に調べ上げられた、「江戸の文化」のマリアージュがまるで江戸時代にタイムスリップしたような感覚を与えてくれます。
京に向かう沖田たち試衛館の面々を迎えた料理は、「柚餅子(ゆべし)」です。
柚餅子は源平時代から続く、日本の伝統的なスイーツで、乾燥に1ヵ月以上かけて作り上げます。保存が効く特徴から、街道沿いのお茶屋で旅人の疲れを癒(い)やしていたのですが、本作にも登場する「柚餅子」で有名な茶屋「みかりや」は熊谷市久下の中山道に今もその跡があります。
熊谷といえば、壬生浪士組隊士の根岸友山の故郷としても有名です。
「食」と「歴史」に加え、こういったリアリティが新撰組の世界観、そして2人の青春ストーリを立体的な味付けにしてくれます。
ラーメンと餃子で料理対決
さて、京についた一行は芹沢鴨に酒を控えさせるためと称して「料理対決」を行います。
ずばりその料理とは「かけ」と「鴨入り福包」です。
かけは今でいうラーメンです。日本では、「水戸黄門」こと水戸藩主・徳川光圀がラーメンを食べていた人物として知られ、そのレシピを再現したものが水戸藩らーめんとして、今も食べることが出来ます。
本作の「かけ」は小麦に蓮の根を練り込み、薬味では「にら」「らっきょ」「ニンニク」「ネギ」「ショウガ」の五辛(ごしん)を用いています。
五辛は五葷(ごくん)とも呼ばれ、仏教では情欲を呼び覚ましたり、感情的になるとして禁じられていました。
明治時代へと続く幕末期。獣肉食を始め、禁忌とされていた食物が、徐々に庶民の間に浸透していった「幕末」独特の「時代の変化」をそこから感じることが出来ます。
そして「鴨入り福包」は餃子。中国では縁起物として喜ばれていたもので、こちらも水戸黄門が江戸時代に食べたといわれる「渡来料理」です。
この料理に対する2人の重要人物の反応。
「異国の物など食えるか」
「何だこりゃ うっめーなぁ!」
果たしてこの2人は誰でしょう?
2人とも、新撰組がテーマの作品には欠かせない人物ですが、本作では「ごはん」を絡めることでより人間味あふれるキャラクターになっています。
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レビュアー
主に「モーニング」「アフタヌーン」「Kiss」等を好む漫画読み系ライター。発酵食品をはじめとした食文化にも興味アリアリです。