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2016.11.04

インタビュー

全国の母に届け! 子育てを見直したくなる「認可外保育園」の世界

新米熱血保育士のニーナと元ホストの園長・太郎が認可外保育園で奮闘する姿を描いた『赤ちゃんのホスト』。国の基準を満たしていないがゆえに受ける偏見や母親たちが直面している現実が描かれ、多くの反響を得ました。3年半にわたる連載を終えた丘上あい先生にお話をうかがいました。

丘上あい

2001年デビュー。代表作は「やさしい子供のつくりかた」「バンビとドール」など。現在はBE・LOVEで『ネコろび八起き』を連載中。

良い認可外保育園もあると知って欲しくて

──なぜ認可外保育園を舞台にしようと思ったのでしょうか?

丘上あい先生(以下 丘上) 私自身が認可園、認可外保育園の両方の保育園のお世話になりながら仕事と子育てを両立する中で、認可外保育園がとてもアットホームで融通が利くと感じたことがきっかけになりました。知人が経営する認可外保育園が「近かったら絶対ここに通わせたかった!」と思えるような自由でのびのびとした育児をしていたというのも大きかったですね。良くないイメージばかりが先行していますが、世の中には良い認可外保育園もたくさんあるということを知って欲しくて。でも描くにあたって調べると世間のイメージの悪さは想像以上で……。他にも保育士一人当たりが受け持つ児童数の多さや待遇の悪さなど現場には様々な問題がありました。私は子供が好きなので、ぼんやりと漫画家以外なら保育士になりたいと思っていたときもあったのですが、出産して命を育てるということの大変さを知りました。親と違って保育士は大勢の子供を同時に見なければなりません。それでいて、親同様に一人一人に対して命の責任を持たなければならないのですから。本当に大変な仕事だと思います。


認可外保育園は命を預かる“ビジネス”。生半可な気持ちじゃできない!

──元ホストの太郎が園長になるというのも、とてもインパクトのある設定でした。最終回が掲載された「BE・LOVE」16号の誌上インタビューでは、保育士とホストには共通点があるとおっしゃっていましたが、あらためて太郎というキャラクターについて教えて下さい。

丘上 太郎は私の分身です。彼は私と違って子供が苦手ですが、もし私が男で保育園に行っていきなり大勢の子供の面倒を見ろと言われたらどうするかなと考えた結果、生まれました。ホストにしたのはパンチが欲しかったのもありますが、対人間という点で共通点があると思ったからです。元々人と接することが好きだけど保育園には無関心、すなわちゼロの状態の彼がいろんなことを知り、成長していく中で何かを伝えられればいいなと。ニーナはあえて生真面目で一本気で正論を押し付けてくる、正直私が嫌いなお利口ちゃんタイプの女の子にしました。その方が私の分身の太郎とすぐ喧嘩してくれるので、話を作りやすいかなと思ったんです(笑)。

親だって反省するし、失敗もする


何かにつけて公立の認可園と比較する座間さん。

──作中で取り上げられた問題の一つにモンスターペアレンツがありました。描いてみていかがでしたか?

丘上 様々な事情を抱えた親たちを描くのはとても難しかったですね。特に認可外保育園に対して偏見を持つ座間さんや、クレーマー体質で他のお母さんや園と問題を起こしてばかりのクララのお母さんは苦労しました。私はどうも悪い人を描けない性分らしくて、厄介な人を厄介なままにしておけず、すぐいい人にしてしまうんですよ(笑)。

──座間さんが園の体制にケチをつけていたのも、子供への行き過ぎた愛情ゆえと思うと難しいなと思いました。子供たちも、読んでいてちょっと憎らしいと思う子もいて面白かったです。

丘上 子供の嫌なところをどこまで出すべきかというのも悩みました。育児をしていて思い通りにならないことや手を焼くことはたくさんあったけれど、そればかり描いても面白くないですし、かといってお利口さんだけでも現実的ではなくなってしまいます。さじ加減が難しかったですね。

──執筆には丘上先生の育児の経験が生きているのですね。

丘上 そうですね、子供を産んだことは大きかったと思います。自分のこと、親のことを振り返る機会になりました。自分が親になった時に、自分が親に言われてうるさいなと思っていたことを、当たり前のように子供にも言っていたりとか(笑)。ヒナが「これ買って」と何度も言ったのに買ってもらえず、最終的にお店から持ってきてしまうというエピソードは幼い頃の私と母の実体験です。「子供は今度ね、って言われたら今度を待ってるんだよね。反省した」と言っていたのを聞いた時、「ああ、親でも反省するんだな」と思った覚えがあります。実際反省ばかりの日々です(笑)。


子供の問題で謝るのはなぜいつも母親なのか?

読者の方から反響が多かったベビーカーの回は、私が普段感じていたことが元になっています。この話は答えを出すべきかとても悩んだのですが、あえて私自身の答えは出さず、太郎らしいことを言ってほしいなと思ったんです。


電車内で泣きわめく子供。周囲の視線が突き刺さる。

──ニーナが口にした「多角的に見られる人間」という話もとても考えさせられました。

丘上 世の中には色々な言葉があって、私自身も直接顔を知らない人から心ない言葉をたくさん言われてきました。そういう時にどう対処すれば心を穏やかに保てるかと考えた時、相手の事情を想像して様々な角度から物事を見る、多角的な視点を持つことで解決できるのではと気付いたんです。家に遊びにきた息子の友達がゲームを独り占めしていた時、「あの子は3人兄弟の一番お兄ちゃんだね。きっと家では下の子たちに邪魔されたり譲ってあげたりして我慢していることが多いんじゃないかな」と話したら、息子は「なるほど」と納得していました。嫌なことを書き込む人は心が穏やかでいられない何かがあったのかもしれない、何か辛いことがあって誰かにぶつけなければ気が済まないのかもしれないなど、色々想像することで心の持ちようも変わると思うんです。

お母さんの味方でいよう

──太郎さんはホストをしていたので女性に対してとても優しいですよね。保護者のお母さんを一人の女性として扱うところもとても素敵だと思いました。世の中には子供を持つ人が自分の時間を持つことに良い顔をしない人もいますし、お母さん自身が罪悪感をもってしまうこともあるようですし……。

丘上 そうですね。描いている時、「お母さんの味方でいよう」という気持ちだけは忘れないようにしていました。母親だってオシャレしていいし、派手にしたっていいし、アイドルに夢中になったっていいし、お酒を飲んで酔っ払ったっていい。それを全部放棄して育児に充てなければ母親ではないという考え方は、私は間違っていると思います。お母さんが自分自身を好きであること、育児以外の大切なものがあるのは悪いことではありません。そういうことが最終的に楽しく育児をすることにつながるなら、私は世の中のお母さんはどんどんオシャレしてイキイキした生き方をして欲しいと思っています。その方が子供も嬉しいんじゃないかなって。


自分を省みず、育児に孤軍奮闘するお母さんたちへ──

──レイコさんみたいに仕事も育児もオシャレも頑張っているお母さんは、未婚の人間から見ても魅力的でした。

丘上 私自身、子供と遊ぶ時に「お母ちゃんも楽しくないとやだ」と言って平気で却下する人間なので、母親である自分自身を慰めたかったのかもしれません(笑)。今はネコが主人公の漫画『ネコろび八起き』を描いていますが、いつかシングルマザーでトラックを転がすような、強くてたくましい綺麗なお母さんが主人公、みたいなお話も描いてみたいですね!

『赤ちゃんのホスト』最終9巻は10月13日発売。『ネコろび八起き』は「BE・LOVE」で大好評連載中です。

(松澤夏織)

BE・LOVE18号より連載開始。彼女に出て行かれ、独り身になった優生(ゆうせい)。
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